FNSドキュメンタリー大賞
「静かな時限爆弾」と言われるアスベスト。
寒冷地の北海道ではアスベストを建物の断熱や防火などのために大量に使ってきた。
つまり、誰もがアスベストを吸っている恐れがある。
アスベストを使った仕事をしたことがなかったにも関わらず、中皮腫となり、死亡した男性を取り上げ、
日常生活の中に潜むアスベストの危険性を伝え、身近な問題として考える。

第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『漂流する棘〜アスベストにさらされた夫婦たち〜』

(制作:北海道文化放送)

<12月2日(土)深夜3時〜3時55分>

 2005年6月、兵庫県尼崎市で、かつてアスベストを使っていた工場の従業員だけでなく、周辺の住民にもアスベストの被害が広がったことがわかった。これをきっかけに全国にアスベストパニックが広がっていった。北海道も例外ではなかった。アスベストを吸うことで、がんの一種である中皮腫や肺がんになる恐れがある。そうした病気を発症するまで30年から50年もかかるため、アスベストは「静かな時限爆弾」と言われる。寒冷地の北海道ではアスベストを建物の断熱や防火などのために大量に使ってきた。つまり、誰もがアスベストを吸っている恐れがあるのだ。それを裏付けるようにアスベストを使った仕事をしたことがなかったにも関わらず、中皮腫となり、死亡した男性がいた。
 12月2日放送の第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『漂流する棘〜アスベストにさらされた夫婦たち〜』(制作:北海道文化放送)<深夜3時〜3時55分>ではそうした日常生活の中に潜んでいるアスベストの危険性を伝え、身近な問題として考えてもらう。

<番組内容>

 去年12月、札幌の中心部でアスベスト患者への補償を求める街頭署名に参加していた男性に出会った。男性はアスベストによる中皮腫となり、余命半年と宣告されていた。
 男性は1級建築士として建物の設計をしているが、若い頃、廃材を捨てる仕事などをしていた。その時にアスベストを吸っていたのだ。今年2月、ホスピスに入院した男性を妻がつきっきりで看病していた。どうしてこんな病気になってしまったのか。そしてなぜ、治療法がないのか、男性は納得できない思いを自らカメラを回し、取材するディレクターに託し、亡くなった。まだ51歳だった。
 さらにアスベストは直接、触れていない家族の体をもむしばんでいた。かつてアスベストを吹き付ける仕事をしていた男性がアスベストによるじん肺・石綿肺になった。肺に水が溜まり呼吸が苦しいため、一日の大半をソファーに座って過ごす。さらに、男性の作業服を洗濯していた妻も間接的にアスベスト吸い、体を侵されていた。今年3月、職場以外でアスベストを吸い労災の対象とならない患者を救済するための新たな法律・いわゆるアスベスト新法がスタートした。しかし、アスベスト新法の対象が中皮腫と肺がんに限られているため、男性の妻は救済の対象から外された。アスベストにさらされ人生を大きく狂わされた夫婦の姿を追った。

<取材のきっかけ>

 2005年7月、『スーパーニュース』で、放送したアスベストの問題を伝えるニュースをみた女性からEメールが届いた。女性は2002年4月にアスベストによる中皮腫で夫を亡くしていた。夫が働いていたのは札幌市内のホテルのボイラー室。アスベストが吹き付けられ、むき出しのままとなっていた。なぜ夫は死ななければならなかったのか? ホテルの責任を追及するため、女性は娘と共に損害賠償を求める裁判を起こしていた。さらに女性は自分と同じような思いをしている被害者が他にいると考え、アスベストの被害を受けた患者や家族が集まる会を作ろうと動き始めた。その取り組みを取材していく過程で、北海道にもアスベストによって中皮腫や石綿肺になり、苦しんでいる人たちが数多くいることが明らかになっていった。そうした被害者との出会いが今回の番組につながった。

<番組の見どころ>

 番組で、主に取材を担当したのは自らデジタルカメラを回しビデオジャーナリストとして取材活動をしているディレクター。そのディレクターがアスベストによる中皮腫で余命半年と宣告された男性と出会った。それからわずか3ヵ月、再会した男性はベッドに寝たままほとんど動けなくなっていた。その男性が死の直前、カメラに向って「(取材させるなんて)やり過ぎだと思っていたけど、今はやらせてもいいと思うな」と自問自答するように語り、取材するディレクターに自らの無念の思いを託した。


<制作者のコメント>

プロデューサー兼ディレクター 向田陽一


 アスベストによる健康被害はかつてアスベストを使う仕事をしていた一部の人たちの職業病と思われていた。しかし、今回の番組での取材で普通に暮らしている人たちの日常にもアスベストを吸う危険が潜んでいたことが分かった。日本でアスベストが最も多く使われたのは1970年代。30年から50年という潜伏期間を考えると被害が本格化するのはこれからだ。今のアスベスト新法による救済で十分なのか、そもそもアスベストを放置してきた国に責任は無いのか?  死の直前に我々の取材を受けてくれた、野村佳且さんの思いに応えるためにも今後もこの問題を問い続けて行きたい。


 ゼネラルプロデューサー 吉岡史幸(北海道文化放送)
 プロデューサー 向田陽一(北海道文化放送)
 ディレクター 向田陽一(北海道文化放送)
小出昌範(ノーステレビスタッフ)
 構成 向田陽一(北海道文化放送)
 ナレーター 斎藤 歩
 撮影 川上 敬(ノーステレビスタッフ)
 音声 平将 史(ノーステレビスタッフ)
 編集 堀 威(ノーステレビスタッフ)
 ライン編集 島崎希望(オーテック)
 音効 早川歩希(スポット)
 MA 大出典夫(東京サウンドプロダクション)

2006年11月22日発行「パブペパNo.06-407」 フジテレビ広報部