FNSドキュメンタリー大賞
これから日本が迎えるであろう超高齢化社会において避けては通れない大きな問題
「高齢者の自殺」に焦点を当て、
精神科医や内科医たちの活動を交えながら、
自殺予防を考えると共に、有機リン慢性中毒と「うつ」の関係性について探る。

第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『自殺大国に潜む影…』

(制作:新潟総合テレビ)

<11月2日(木)深夜3時10分〜4時05分放送>

 11月2日(木)深夜3時10分〜4時05分放送第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『自殺大国に潜む影…』(制作:新潟総合テレビ)は、精神科医や内科医たちの活動を交えながら、自殺予防を考えると共に、有機リン慢性中毒と「うつ」の関係性について探る。

<企画概要>

 日本の自殺者の数は1998年から毎年3万人を超え、今では交通事故による死者の4倍以上に達している。新潟県も自殺率が高い県に名を連ね、昭和39年以降、全国でワースト10位以内に推移している。新潟県の自殺の特徴は、高齢者の自殺率が高いことだ。「何もすることがない」「若い人に迷惑をかけたくない」というのが主な原因。これから日本が迎えるであろう超高齢化社会において、避けては通れない大きな問題「高齢者の自殺」に焦点を当てる。

<番組内容>

 年々増えている、日本の自殺者。新潟県の阿賀町などでは、高齢者を対象に健康診断で、「健康アンケート」を実施している。アンケートには「うつ病」に関する項目も記載されていて、保健師たちは早期に高齢者の「うつ」を発見しようと心がけている。全国的には自殺率が高い都道府県の上位を「農業県」が占め、特に農村部で高齢者の自殺が多発している。
 新潟県の十日町市(旧松之山町)では、高齢者の自殺率が434.6人(10万人あたり・1970年〜1986年)と、全国平均の約9倍を記録。この自殺率を下げようと、1985年には新潟大学の精神科医たちが自殺予防のプロジェクトを立ち上げ、活動を行ってきた。
 活動した医師のうちの1人、中条第二病院の須賀良一病院長(51)はまず、「自殺はタブー」と考える住民の問題に直面したと話す。活動を続けていくと、須賀病院長たちは高齢者の自殺が「2世代、3世代の同居家族」に多く、家族内での孤立が影響していることがわかってきた。
 20年ほど前、松之山で母親を自殺でなくした田村英二さん(仮名)。今も母親の自殺が脳裏から離れないという田村さんは「1人でやったことだからどうしようもない」と話す一方、「どういうことに悩んでいるのか相談してほしかった」と悔やんでいる。田村さんの母親も3世代が同居し、「家族に迷惑をかけてしまう」と感じての自殺。松之山の典型的なパターンだった。

 自殺をする人は少なからず「うつ状態」に陥っている。精神科医たちが「うつ対策」に力を入れた「松之山プロジェクト」を行った結果、高齢者の自殺率を「4分の1」に減らすことができた。このプロジェクトを生かした取り組みは、今も各地で息づいている。
 阿賀町で活動する吉嶺文俊医師(46)は、病院まで治療に来ることができない高齢者を対象に、訪問診療を行っている。内科医本来の仕事である「病気の治療」のほかに、高齢者のうつ対策にも力を入れる。吉嶺医師は「山間部では高齢者のうつが多い」と述べ、ケアをする人が少ない分フォローするのが難しいと話す。

 一方で、南アフリカ共和国・ケープタウン大学のロンドン教授たちは2005年に『自殺と有機リン系殺虫剤への曝露』と題する論文を発表した。低レベルの有機リン系農薬を長期間浴びると、「うつ」を発症し、自殺を引き起こす恐れがあるという衝撃的な内容だった。またアメリカのCDC(疾病予防対策センター)でも、ホームページに「有機リン化合物の慢性中毒」が「うつを引き起こす」と警告を発している。
 日本にも有機リン系農薬の慢性中毒の危険性に注目している医師がいた。群馬県前橋市で神経内科を専門とする青山美子医師(68)は、20年以上前から農薬や化学物質による体調不良を訴える患者を治療してきた。青山医師は特にラジコンヘリによる「有機リン系農薬」の空中散布に注目し、風向きによって同じ地域から同様の症状を持った患者が、治療に訪れると話す。
 有機リンの慢性中毒の危険性については、2006年3月の参議院予算委員会でも取り上げられた。質問を投げかけたのは、元環境副大臣の加藤修一議員。加藤議員も有機リン慢性中毒についての危険を認識し、国会議員という立場から対策は打てないだろうかと奔走する。加藤議員の質問に対し、厚生労働省の中島正治・健康局長は有機リン化合物について「さまざまな慢性の障害を引き起こす」という報告があることを認めているが、「引き続き注視していく」という見解に留まっている。
 取材を進めていくと、厚生労働省は平成15年度に、研究機関に補助金を出して「有機リンの慢性中毒」について研究させ、報告を受けていたことが分かった。報告書には「有機リンは脳神経毒である」「脳の発達段階にある胎児や子供は十分な配慮がなされなければならない」「安全な物質開発に力を注ぐべき」と書かれていて、有機リン慢性中毒の危険性を指摘していた。
 しかし厚生労働省や農林水産省は、有機リン慢性中毒の危険性を認識しながらも、いまだ有機リン化合物に対する規制策をとってはいない。
 有機リン化合物の危険性が世界各地で指摘されているにもかかわらず、なぜ日本は有機リンを規制するなどの具体的な対応策をとらないのか。今後、日本はどのように「有機リン」と向き合わなければいけないだろうか。

 精神科医や内科医たちの活動を交えながら、自殺予防を考えると共に、有機リン慢性中毒と「うつ」の関係性について探る。

<ディレクター・佐々木渉のコメント>

 私はこれまで報道記者として4年間、事件や事故などさまざまな取材を続けてきました。しかし死者が自殺と判明、とくに一般人の自殺で事件性がないと判断されると、引き上げることがほとんどでした。しかし日本で毎年3万人を超える人が自殺していることに驚き、無視することができない問題と感じました。「自殺の裏には、何か大きな問題が潜んでいるのではないか」と考えながら、今回の番組制作を進めました。
 テーマを「自殺」と決めて取材したわけですが、今まで以上に取材が困難に感じました。「自殺」は殺人などの事件と違い、人間の内面や家族関係などにも問題が発展していきました。「どこまで遺族と向き合えばよいのか」、「どこまで踏み込んで取材してよいか」など、常に葛藤しながら、取材を続けてきました。
 番組を通じて、大勢の視聴者に「高齢者の自殺」が誰にでも起こりえる問題ということを真剣に考えてもらい、また「有機リンの慢性中毒の危険性」を認識していただければと思っています。


<番組概要>

◆番組タイトル 第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『自殺大国に潜む影…』
◆放送日時 2006年11月2日(木)深夜3時10分〜4時05分
◆スタッフ
撮影 竹内清貴
山田龍太郎
尾田 博
手塚 顕
高橋直文
伊藤浩之
CG 前田和也
小西香澄
平岩佳恵
編集 渡辺 誠
藤井 亮
MA 佐藤誠二
選曲 渡辺一弘
梅澤明範
構成 高橋 修(フリー)
ナレーター 山口奈々(青二プロダクション)
ディレクター 佐々木 渉
プロデューサー 国上和義
制作 新潟総合テレビ

2006年10月23日発行「パブペパNo.06-365」 フジテレビ広報部