FNSドキュメンタリー大賞
短歌に救いを見出した青年死刑囚と、短歌を通し励まし続けた日本を代表する歌人の一人、窪田空穂。
二人の間に交わされた往復書簡や二人を知る人たちの証言などをもとに、
刑務所の高い塀を越えて、どのような心の通い合いがあったのか、
人生のどん底にまで落ちたひとりの人間を変貌させたものは何だったのかを探る。

第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『われに短歌(うた)ありき〜ある死刑囚と窪田空穂〜』

(長野放送)

<9月2日(土)深夜3時20分〜4時15分放送>

 9月2日(土)深夜3時20分〜4時15分放送の第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『われに短歌(うた)ありき〜ある死刑囚と窪田空穂〜』(制作:長野放送)は、一冊の歌集を遺して世を去った青年死刑囚・島秋人(しま・あきと)と、その短歌の才能を見出し励まし続けた日本を代表する歌人の一人、窪田空穂(くぼた・うつほ)の二人が交わした書簡や二人を知る人たちの証言をもとに、心の通い合いや、人生のどん底にまで落ちたひとりの人間を変貌させたものは何だったのかを探る。

<企画概要>

 一冊の歌集を遺して世を去った青年死刑囚と、日本を代表する歌人の一人、窪田空穂。およそ40年前、二人が交わした未発表の手紙やはがきなど40通が昨秋、公開された。
 窪田空穂は、明治・大正・昭和を生きて生涯に一万数千首の歌を残した大歌人。一方の死刑囚は短歌を詠み、ペンネームを島秋人といった。島は昭和34年、新潟で強盗殺人の罪を犯し、33歳で極刑を執行された。
 5年間にわたる往復書簡で島は、短歌に出会えた喜びをつづっている。その一方で死におびえる島に、空穂は歌を作りなさいと励ました。
 番組では、書簡や二人を知る人たちの証言をもとに、心の通い合いや、人生のどん底にまで落ちたひとりの人間を変貌させたものは何だったのかを探る。

<番組内容>

 うす赤き冬の夕日が壁をはふ死刑に耐へて一日生きたり

 この短歌の作者は死刑囚である。本名・中村覚。ペンネームを島秋人といった。昭和34年、故郷・新潟で強盗殺人の罪を犯して極刑を言い渡され、昭和42年、33歳で刑を執行された。島は獄中で、犯した罪の深さに向かい合い、逃れられない死の恐怖と対峙しながら、短歌を詠み続けた。凶悪な罪を犯したその同じ人間が紡ぎ出した歌の数々は、今も読む人の心を揺さぶらずにはおかない。
 島に短歌の才能を見出し、励ましつづけたのは長野県松本市生まれの歌人・窪田空穂だった。およそ40年前、二人の間に短歌を通した心の交流があった。その未発表往復書簡が去年、新たに発見され、昨秋、初公開された。書簡で島は、短歌に出会えた喜びをつづっている。その一方、死におびえる島に、空穂は、「歌を作りなさい。死ぬことのいやなのは、人間の本能の最も大きいものだ。万人共通の情だ、裸になってそれを表現しなさい」と励ました。
 二人の師弟関係は、空穂が選者を務める新聞の「歌壇」に島が投稿したのがきっかけ。二人の間には5年間にわたって頻繁に手紙やはがきが交わされていた。子供の頃の島は、病弱で学校の成績も悪く、周囲からも疎んじられる存在だったが、空穂の温かい励ましと指導によって、心を素直に表すことができるようになり、秘められていた短歌の才能を開花させていく。
 死に直面しながら苦悩する島の周囲には、空穂のほかにも、善意と人間愛に満ちた人々がいた。当時、女学生だった前坂和子さんは、島の短歌に心を打たれて文通を始め、面会に訪れては、四季折々の花を差し入れて島の心を和ませた。
 宮城県の千葉てる子さんはクリスチャンで、島に信仰の道に入ることを勧め、角膜や遺体を献納したいという島の願いをかなえてやるため、養母となった。
 そうした人々との交流によって島は人間的な成長を遂げ、生きることの意味を見出していったのだった。処刑が翌日と決まって、島が遺した最後の歌――。

 この澄めるこころ在るとは識らず来て刑死の明日に迫る夜温し

 処刑の1ヵ月後、『遺愛集』と名づけられた島の歌集が出版された。獄中での歌640首をおさめた『遺愛集』には、空穂が題字と序文を寄せた。一冊の歌集を遺して世を去った青年死刑囚について空穂は「秋人君のこの何年間も持ちえたものは、自身の思念のみであった。この思念は自己の生を大観するものとなり、極悪事の反省となり、悔悟となり、死をもっての謝罪となり、その最後が、現在の与えられている一日、一日の短い生命の愛惜となり、そして作歌となって来たのである。『遺愛集』は将来にも生き、秋人の生命もその作品をとおして息づきゆくものと信じられる」と記している。
 番組では、短歌に救いを見出した死刑囚と歌壇の重鎮との間に交わされた往復書簡や二人を知る人たちの証言などをもとに、刑務所の高い塀を越えて、どのような心の通い合いがあったのか、人生のどん底にまで落ちたひとりの人間を変貌させたものは何だったのかを探る。
 ひとりの死刑囚の生涯は、人間の限りない可能性、教育の大切さ、命の尊さを考えさせる。

<ディレクター・プロデューサー 宮尾哲雄コメント>

 獄中から出した一通の手紙が島の人生を変えました。その手紙は中学時代の図画の先生に宛てたものでした。誰からも褒められたことがなかったのに、一度、その先生に自分の絵を褒められたことがある――それを思い出して手紙を書いたのでした。その先生は死刑囚となった教え子に温かい手を差し伸べ、やがて島に短歌と知り合うきっかけを与えてくれたのです。「教師はすべての生徒を愛さなくてはなりません。目立たない少年少女の中にも平等に愛される権利があるのです」と島は書いています。
 空穂をはじめ多くの人たちに支えられてしだいに人間的な心を育んでいった島秋人の心の遍歴をたどるとき、常に感じたのは教育の大切さでした。そして、島の人生は、人間だれもが自分の花を咲かせる可能性をもっていることを教えてくれました。


<番組概要>

 ◆番組タイトル 第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『われに短歌(うた)ありき〜ある死刑囚と窪田空穂〜』
 ◆放送日時 2006年9月2日(土)深夜3時20分〜4時15分放送
 ◆スタッフ
語り 渡辺美佐子
出演 浅沼晋平  ほか
朗読 上小牧忠道(NBSアナウンサー)
音響効果 プロジェクト80
撮影・編集 梨子田 眞
企画・構成 山口慶吾
ディレクター・
プロデューサー
宮尾哲雄
制作 長野放送

2006年8月28日発行「パブペパNo.06-284」 フジテレビ広報部