FNSドキュメンタリー大賞
2005年4月、兵庫県尼崎市で起きたJR福知山線の脱線事故。
乗客ら107人が死亡、550人以上が負傷した。
なぜ事故が起きたのか…
番組では、日本の事故調査はどうあるべきか、事故調査の先進国オランダ取材をまじえ、
事故を繰りかえさないための社会のあり方を提言する。

第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『事故調査〜JR福知山線脱線事故1年〜』

(関西テレビ)

<7月16日(日)深夜2時10分〜3時05分放送>

 2005年4月、兵庫県尼崎市で起きたJR福知山線の脱線事故。乗客ら107人が死亡、550人以上が負傷した。「なぜ事故が起きたのか」。遺族らの問いにJR西日本は説明責任を果たさない。事故調査委員会による調査と警察の捜査の間にも大きな壁がある。7月16日(日)放送『事故調査〜JR福知山線脱線事故1年〜』(関西テレビ)<深夜2時10分〜3時05分>では、日本の事故調査はどうあるべきか。事故調査の先進国オランダ取材をまじえ、事故を繰りかえさないための社会のあり方を提言する。

<番組意図>

 2005年4月25日兵庫県尼崎市で起きたJR福知山線の脱線事故。乗客ら107人が死亡、550人以上が負傷した。遺族の多くが「なぜ事故は起きたのか? 事故の真相を知りたい」と話す。現在、事故調査委員会による調査と警察の捜査が平行して行われている。事故原因はもちろん、事故の背景に何があるのか、事故原因はなぜ除去できなかったのか、行政のあり方には問題がなかったのかなど解明すべきポイントはいくつもある。日本の事故調査はこうしたポイントを解明できるのか。

 突然の事故で最愛の人を失った遺族らはつながりを求めて“4・25ネットワーク”を作り、JR西日本と向き合った。しかし、自らの説明責任を果たそうとしないJR西日本の対応はさらに遺族を苦しめるばかりだ。遺族らを支援する佐藤健宗弁護士はこうした遺族らの姿に胸を痛める。佐藤弁護士は15年前の信楽列車事故の際、遺族側の弁護団に参加し、JR西日本の企業体質を痛感していた。裁判でも自らの責任を認めなかったJR西日本。これではまた事故が起きる…そう思い、信楽列車事故の遺族らとともにTASK(鉄道安全推進協議会)を設立し、鉄道の安全を訴え続けてきた。その結果、航空部門しかなかった日本の事故調査委員会に5年前ようやく“鉄道部門”ができたのだ。

 しかし、こうして事故調査委員会ができた今でも日本の事故調査は大きな問題を抱えている。ひとつは「調査と捜査の壁」。日本では再発防止のための「調査」より個人の責任を追及する「捜査」が優先される現状がある。また鉄道事故のような組織が招いた大事故では法制度の限界があり、なかなか企業体質や行政の不備など事故の背景までは明らかにならない。もうひとつの問題点は「事故調査委員会が国土交通省の傘下にあること」だ。JR西日本の“ゆとりのないダイヤ”などを是正してこなかった国土交通省をはじめ、行政の不備をきちんと指摘しようとするならば調査機関は監督官庁から独立した組織であるべきではないか。こうした問題点の解決策を求めて佐藤弁護士は事故調査の先進国オランダ視察を決めた。

 オランダも鉄道事故の重い歴史を背負っている。しかし、日本の事故調査が抱える同じ課題に直面しながら、オランダは事故調査制度の一大改革に成功した。調査と捜査の壁や調査機関の独立問題などを一挙に解決した。多くの先進国同様、国の監督官庁から独立した事故調査機関を設け、事故の再発防止を見据えた徹底的な調査が行われるようになった。大切な人を一瞬にして奪われた遺族の人たちにとっても「事故原因究明による再発防止」は「責任の追及」と同様にその心情に沿ったものだ。オランダには日本の事故調査に決定的に欠けている「被害者の視点」がある。事故という失敗から教訓を学ぶ社会の姿があった。佐藤弁護士はこれら視察内容を国会で報告、あらためて“事故調査の独立”の必要性を訴える。

 事故から1年が経つが、遺族や負傷者らの心の傷は癒えない。JR西日本は変わったのか。安全以上に優先されるものは何も無いはずだ。番組では事故の遺族や被害者の悲痛な思いとともに、再びあのような大惨事を起こさないためにはどうすればよいか考えたいと思う。

<取材内容>

(1)JR福知山線脱線事故の遺族たち
(2)4・25ネットワークの支援弁護士・佐藤健宗弁護士(信楽高原鉄道事故遺族弁護団)鉄道安全推進会議(TASK)事務局長でもあり日本の事故調査委員会の設置に尽力
(3)JR西日本新旧社長等関係者・国交省・事故調査委員会関係者ほか
(4)オランダの事故調査委員会…佐藤健宗弁護士視察に同行

<小杉太二プロデューサーのコメント>

 あの大惨事から1年がたちました。安全を疑いもしなかった“列車”の事故で、大切な人を奪われた遺族。多くの人が「なぜ事故が起きたか? 事故の真相が知りたい」と話します。しかし、JR西日本の対応は遺族を失望させるものばかりで、その現実がさらに遺族を苦しめます。
 信楽列車事故以来、JR西日本の企業体質を痛感している佐藤健宗弁護士は、こうした遺族の姿に今、あらためて「なぜ防げなかったのか、なぜ繰り返されたのか」を考え続けています。そして、日本の「事故調査」のあるべき姿を求めて事故調査の先進国“オランダ”を視察。番組では佐藤弁護士に同行し、日本と違う調査制度や、独立した調査機関などを取材しました。
 遺族の痛みとともに、事故を繰り返さない制度の実現に奔走する佐藤弁護士を追うことで、番組が事故という失敗から学ぶ社会へのひとつの提言になればと考えています。


<スタッフ>

 プロデューサー 小杉太二(関西テレビ報道部)
 ディレクター 柴谷真理子(関西テレビ報道部)
奥 元伸(関西テレビ報道部)
 カメラマン 樋口耕平
 カメラ助手 寺口純平
 編集 片野正徳
 制作 関西テレビ報道部

2006年7月10日発行「パブペパNo.06-217」 フジテレビ広報部