FNSドキュメンタリー大賞
「第14回FNSドキュメンタリー大賞」の大賞作品が
テレビ新広島制作の『黒太郎一家の10年〜ナベヅルと暮らす村・八代〜』に決定!
山口県・八代のナベヅルを10年の長期にわたって取材した渾身のドキュメンタリー作品を中心に放送!!

『決定!FNSドキュメンタリー大賞』(仮)


<1月29日(日)16時〜17時25分放送>

 フジテレビの系列28局が番組制作能力の向上と、そのノウハウの蓄積を図るという趣旨のもと、ドキュメンタリー作品を競い合う「第14回FNSドキュメンタリー大賞」の大賞作品『黒太郎一家の10年〜ナベヅルと暮らす村・八代〜』(テレビ新広島)が選ばれた。
 テレビ新広島の作品は審査員から「ナベヅルの生態をきっちり把握して取材し、映像におさめるのは非常に難しい作業だが、10年の長期にわたり、丹念に追いかけている。特にナベヅルがシベリアに行く“北帰行”を撮るのは一発勝負で、相当粘り強い取材が必要。黒太郎というキャラクターの強い鳥に目をつけ、黒太郎の妻ヅルのけがなど、作品にドラマ性がある。また、ナベヅルと地域とのかかわり、地域の人々が野生動物の生態を理解して、ナベヅルと適度な距離を保ちながら、いい関係を築いている様子をしっかりと描いている」と高い評価を得た。
 なお、優秀賞2作品に『ある出所者の軌跡〜浅草レッサーパンダ事件の深層〜』(北海道文化放送)、『有沙と私 それぞれの壁〜日本に嫁いだ中国人妻を追って〜』(福井テレビ)、特別賞3作品には『事件報道に奪われた妻』(岡山放送)、『軽トラ行商は命 84歳魚売りばあちゃん物語』 (サガテレビ)、『むかし むかし この島で』 (沖縄テレビ)が選ばれた。
 今回の大賞作品を中心にした番組は、1月29日(日)『決定!FNSドキュメンタリー大賞』(仮)として放送される<16時〜17時25分>

 『黒太郎一家の10年〜ナベヅルと暮らす村・八代〜』で大賞を見事、射止めたディレクターは入社11年目の白神道空(しらかみみちひろ)さん。白神ディレクターは入社以来、制作畑で、バラエティのローカル番組を主に担当してきた。ドキュメンタリー作品のディレクターは今回で2作目。今回の作品はアシスタントディレクターの時に出した2本の企画書のうちの1本だという。大学時代の専攻は教育学部で、小学校の教員免許を持つ。先生になろうと考えていたが、テレビの方が教育者よりも人々に影響や感動を与えられるのじゃないかと思い、テレビの世界を選んだ。
「僕が常々、番組制作で考えているのは、バラエティでもドキュメンタリーでも、ちょっとした料理を紹介するのでも、僕なりに何かポイント、見た人の印象に残ったり、何か感動してもらうことなんですよ」と番組作りへの情熱いっぱいだ。白神道空ディレクターに山口県・八代のナベヅルを取材するようになった“きっかけ”、ナベヅルの魅力、取材中のエピソードなどを語ってもらった。

○八代のナベヅルを取材しようと思った“きっかけ”は?

 入社2年目のAD(アシスタントディレクター)の時、中国地方5県でやっているクイズ番組を担当していたのですが、ディレクターが特番で忙しく、ADの僕にリサーチ、ネタさがしから全部やるように任されたんです。いろいろ調べているうちに八代のナベヅルにたどりつきました。八代に取材に行き、感動したんですよ。会社に帰って話すと周りの反応がよかったんです。もちろん、ツルの生態についてのクイズも出したのですが、今回の作品のプロデューサーの寺田が「わしが応援しちゃるけ、企画書を書いてみんさい」と後押しをしてくれ、実現しました。最初は寺田もディレクターで一緒に八代に行っていたのですが、2、3年目からは僕一人でも行くようになりました。

○八代に行って、どこに感動したんですか。

 明治の頃は日本全国にナベヅルが来ていたのですが、今では本州では山口の八代だけなんです。絶滅に瀕している国の天然記念物ナベヅルがどこにでもあるような村にいるのに感動しました。日本の風景の象徴である棚田にナベヅルが飛来してくるのがごく自然で、村の人々も囲いもせずにナベヅルと自然に接している姿がいいなと思いました。昭和15年頃は355羽、八代にいたのですが、僕が八代を初めて訪れた10年前はナベヅルの数が過去最小で、ある大学教授が2年後にはゼロになるとさびしそうに話しており、八代のナベヅルと村の人たちの活動を記録に残したいと強く感じました。

○黒太郎に注目した理由は?

 黒太郎は23羽の中で圧倒的に強かったんです。いばっているのですが、村の子供たちから人気があったんです。強いけど人間味があり、寺田プロデューサーが気になっていて、黒太郎をクローズアップしようということになり、追ってみると、北帰行の時の仲間意識とか家族への愛情など、本当にドラマがありました。子供たちに人気があって目だっていた黒太郎に着目したのがうまくいきました。

○長年、黒太郎を取材して思い入れも相当あると思いますが、黒太郎のどういったところが好きですか。

 まず家族思いのところです。人間でもそこまで家族をいたわれないのに、黒太郎はごく自然にできるのがすごいです。我々、人間は教育で身についている面がありますが、黒太郎は家族へのいたわりや、仲間への思いやりを自然に身につけているんです。オシドリ夫婦という言葉がありますが、実はオシドリは一年ごとにパートナーを変えます。ツルは死ぬまでパートナーを変えないんです。黒太郎は最初の妻を亡くすのですが、もう二度と八代には来ないと思ったのですが、また新しい妻を連れて八代にやって来るようになりました。人間だったら落ち込んで、残りの人生を暗くすごすかもしれませんが、黒太郎は前向きですよね。それから、リーダーでありながら、みんなに優しいところが好きですね。

○ナベヅルを取材して、苦労した点は?

 ナベヅルはずっと餌を食べているので、動きが少ない。3時間追って、1回しか動きがないとか。それから、八代盆地は山口県で一番寒いところで、雪が半端じゃないんです。足がかじかむし、カメラマンはピントを合わせないといけないから、手袋ができません。カメラマンはいつも「指がちぎれそう」と言いながら撮影していました。寒さと何が起こるかわからないという緊張感が一番の苦労です。ナベヅル相手ですから、八代に行ってもテープを全く回せないこともありました。でも、苦労といっても、八代に行くと癒やされていたので苦労とはいわないかもしれませんね…。

○10年取材してきて、ナベヅルの生態でわかったことはありますか。

 いっぱいありますね。飛ぶ瞬間がいつかとか、けんかの種類とか…。けんかだと思ったら求愛だったり。しぐさの一つ一つに意味があるんです。首の上げ方も、けんかの時、求愛の時、飛び立つ時、それぞれで違います。

○10年前から取材しているということで、取材テープはたくさんあるんじゃないですか。

 500本は軽くあります。編集前に、10年前からの素材をすべて見るのがつらかったですね。最初はベーカムで20分テープや40分テープ、最近はHDで60分。素材ののべ時間は何百時間ですね。

○取材・編集にあたり、どのあたりを工夫しましたか。

 聞いて欲しかったんですよ(笑)。FNSドキュメンタリー大賞は社会派が受けると聞いていたのですが(笑)、僕はナベヅルの生態にこだわりました。ナベヅルの生態を描くことが自然保護につながると考えました。最初は鳥インフルエンザの問題とか、国の動きとかも入れようと思ったのですが、あえてナベヅルにこだわりました。何よりも黒太郎がすべて雄弁に語ってくれると考えたのです。八代のナベヅルや全世界のツルのために、マスコミである僕らができるのは、ナベヅルがこんなにも人間的だということを理解してもらうことだと思いました。ナベヅルの生態にこだわると、プロデューサーやスタッフと意思統一した段階で、入賞の可能性は薄いと思っていましたが(笑)、大賞をいただくことができ、とてもうれしいです。せいぜい賞をいただけるなら、特別賞かなと思っていましたので(笑)。

○大賞受賞の一報を聞いた時はどうでしたか。

 震えましたね。涙が出そうでした。別のロケの最中に聞いたのですが、信じられなくて、半日ぐらい黙っていました。プロデューサーでもある編成部長から連絡があって初めて、ナベヅルの関係者に報告しました。村の皆さんは「うぉーっ、そうかそうか」と喜んでくれました。

○日曜日の夕方にもう一度、放送されますが、どういったところを視聴者に見てもらいたいですか。

 僕にとって、この作品は二つのテーマがあるんですよ。まず、八代流の自然保護の仕方を見て欲しいんですよ。八代の人々がごく自然に野生動物と関わっている距離感は僕らが誰でもできることだと思うんですよ。それから、ナベヅルの人間らしいところです。僕ら人間の中で希薄になっている家族愛、夫婦愛、仲間を思う気持ちです。もっと、野生動物を理解しましょうということです。黒太郎の姿は雄弁でしたね。僕はディレクターとしてほとんど何もやっていませんから。ただ、黒太郎を追いかけ、編集しただけです。粘り強く取材したことは胸を張って誇れますが、あとは黒太郎がすべてを語ってくれました。

《大賞受賞作品のあらすじ》

 山口県周南市熊毛町の八代盆地。10月になると、この村に“客人”が訪れる。その客人とは、『ナベヅル』。シベリアの湿原に生息するナベヅルは、10月になると越冬のため、はるばる2000kmも離れた南方の地、八代へやってくる。
 かつて、ナベヅルは身近な鳥として、日本各地で見ることができた。しかし、戦中戦後の食料難による捕獲によって、その数は激減し、今では八代が本州で唯一のナベヅルの飛来地となった。
 元来、海や川の沿岸など湿地帯を好むナベヅルがなぜ、山里の八代だけに飛来するのか? それは明治時代から続く、八代の住民たちの取り組みにあった。
 明治20年、日本各地で鳥が乱獲され、その数が減少したことから、密かに猟師がナベヅルを捕獲しようと、八代に来るようになった。しかし、八代の住民は、半鐘を打ち鳴らし、手に鋤や鍬を持って猟師からナベヅルを守った。そして『八代村のツルの捕獲を禁じる県令』をつくった。これが日本初の自然保護条例である。
 ナベヅルの絶滅を危惧する八代の住民たちの取り組みは、後世へと受け継がれ、今でも秋になると、ナベヅルが飛来する前に、ねぐらとなる休耕田の草を刈って水を撒いたり、田んぼにツルの模型をたてて、誘致を促す。それでもひとたびツルがやってくると、彼らの領域には決して足を踏み入れず、遠くからそっと見守ってやる。八代の子ども達は、観察記録を“ツル日記”にしたため、歓迎の意を表する。
 35年間、野鶴監視員を務めた弘中数実さん(現84歳)も、「ツルの住めない場所は、人間の住めないところだ」と、ナベヅルの存続を懸命に訴え続けてきた住民の一人だ。
 そんな八代の住民にとって、ナベヅルの存在とは…?
 番組では取材をすすめていくうちに、ある1羽のナベヅルと出会った。名前は“黒太郎”。名づけ親は地元の小学生で、毎年、妻ヅルと子ヅル2羽を引き連れて八代にやってくる。八代のツルの中で最も強くて、最も優しいリーダー的存在。いわば“八代の番長”でもある黒太郎は、ナベヅルの世界にも、まさに人間さながらの愛情物語が存在することを教えてくれた。家族の絆、夫婦愛、そして、最愛なるものを失う悲しみ…
 野生動物とは思えない極めて人間的な感性をもつ、黒太郎一家をずっと見守ってきた八代の住民にとって、彼らはペットや動物ではなく、『仲間』同然なのである。


<大賞受賞作品の出演者>

 ナレーター : 石田ひかり

<大賞受賞作品のスタッフ>

 プロデューサー 川上伸一(テレビ新広島)
寺田治司(TSSプロダクション)
 ディレクター 白神道空(TSSプロダクション)
 構成作家 司 透
 編集 寺田治司
白神道空
 制作 テレビ新広島

2006年1月11日発行「パブペパNo.06-011」 フジテレビ広報部