FNSドキュメンタリー大賞
虐待の後遺症の実情を訴えたい!
家族全員が顔出しを決意。
児童相談所の現体制の問題点、
日本の支援体制のあり方を問いかける。

第14回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『くらやみにまけないで―虐待の記憶との闘い―』

(関西テレビ制作)

<8月26日(金)2時35分〜3時30分放送>
【8月25日(木)26時35分〜27時30分】

 急増して止まらない児童虐待。
 岸和田のケースでは子どもを監禁、殺人未遂の事態に至って、警察が介入し、最終局面で命は救えたが、警察庁によるといまも3日に1人の子どもが親による虐待と推察される死を迎えているという。子どものSOSは見えにくく、警察や児童相談所もなかなか手がまわらない。警察は立件の壁、児童相談所には親権の壁が立ちはだかる。
 一方、虐待されて育った人たちはどんな幼年期や思春期を過ごし、その後、どんなトラウマを抱えるのだろうか?
 自身が母親から虐待され育ち、自身の子どもを虐待した経験者をもつ33歳の母親が、同じ痛みを持つ虐待体験者やDV被害者らとネットワークをつくり、被害者救済の活動や法律の改正を求め始めた。8月25日(木)放送の第14回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『くらやみにまけないで―虐待の記憶との闘い―』(関西テレビ制作)<2:35〜3:30放送>では、この女性の家庭に密着。メディアに虐待の後遺症の実情を訴えたいと、家族全員の顔出しを決意。虐待の記憶が色濃く残る子育ての苦労や友人たちの虐待の事例を紹介する。児童相談所の現体制の問題点、日本の支援体制のあり方を問いかける。

<主人公一家とストーリー>
 大阪市内で暮らす母子家庭。母親は文(あや)さん(33歳)。
中学2年の長男(14歳)、中学1年の次男(13歳)、小学2年の3男(8歳)で暮らしている。
 母親、文さんは、幼いころ母親に虐待されて育てられた。そのころの記憶が今も残る。
トラウマになっていると気づいたのは、最初の結婚が破綻して、24歳で2人の子どもをつれて再婚した相手がDV男性だったことによる。
 3男は自分の子供だが、次男は前の夫に似ていると監禁し、虐待しはじめた。その盾になった文さんにもすさまじい暴力が加えられ、97年、風呂で次男を水中に沈め失神させる事故が起きた。
 後にDV夫は「事故で次男が死んでしまったらいい」と思っていたと、殺人未遂事件だったと話す。
 DV夫に叩かれている最中思い出したのは幼い日、母親から受けた虐待の現実。映像のように記憶が蘇る。
 DV夫と離婚してもストーカー訪問がやんだ一昨年、今度は自分が子どもへ身体的な虐待を繰りかえすはめに……。
 昔、親から体罰をやられて二度としないと誓いながら、次男の頭を割る虐待をしてしまった自分。なぜ虐待の世代間伝達が起こるかという問いかけに「今もわからない」という。
 そんな中、次男が突然、虐待され、封印されてきた記憶を語り始めた。文さんはそんな暗黒の記憶を「くらやみ」と表現し、それに「負けない」で克服することが大切だと子どもと向き合い、社会に訴える行動を起こした。
 番組前半は主に文さんの成育暦や子どもの虐待の足跡。後遺症としての発作がおこるとどうなるのか?当事者の苦しみを提示。後半は、虐待で悩む友人たちとの交流や救出行動。特に性的虐待のあるケースと出会い、自身が性的虐待を受けていたことを思い出し、あらたな「くらやみ」との闘いが始まる。虐待されて育った次男も「くらやみ」との葛藤が始まった。


●ナレーション 工藤夕貴
 ハリウッド女優として去年までアメリカで活躍。
 今年から日本の静岡に居を構え映画、ミュージカル女優として新たな一歩を踏み出した。
 最新作は、戦争による日系人の強制収容所という問題を映画化した「ヒマラヤ杉に降る雪」。
 役つくりのため収容所の日系人の話を聞き、資料を読みあさった。
 その際、「日本はすべてが暗闇だったが、米国にも暗闇があったことが分かった」とコメントしている。
●プロデューサー 細川康雄
●ディレクター 塩川恵造

<ディレクターのコメント>
 少子化対策が叫ばれる中、日本では3日に1人、親の虐待が原因とみられる死亡事案が起こっている。下層社会のある家族に起こっている現実を生活に密着して映像ルポを試みた。私たちが彼女と出会ったのは、1年前の去年の春。男の子3人を育てる31歳の母親は、自分の子どもを虐待して育てていることを自覚していて、自分を客観化し制止する決意を持って家庭にカメラを持ち込むことを許した。
 再婚相手の男は7年間、連れ子の次男を死の一歩手前まで虐待した。自分へのDVも、子どもへの虐待も黙認してきた精神構造。その後、虐待されて育った自分がいやだった虐待をなぜしたか理由を語る。
 彼女は、虐待、DVされて、心の中に深く刻まれた傷、トラウマを「くらやみ」と表現した。虐待を経験した家族に密着できたことで当事者しかわからない生活や精神世界が垣間見える。
 発作が起き、眠れず、虐待の記憶がよみがえる。「闇がこわい」−−彼女の周りには、同じ傷をもった親子が集まり、互いに励ましあい癒しあっていた。そのキーワードが「くらやみ」なのだ。
 彼女の3人の息子たち以外に小学校1年から4年までの、虐待されている子どもたちの生活や現実、思いを映像化。過去の忌まわしい記憶を思い出す、子どもたちの姿が映し出されたとき、思春期を迎え、この子たちはどうなるのか? 親でなくても不安に陥れられる。
 社会整備が必要…。そして生まれ落ちた家庭内の子供がおかれた現実。テレビとして放送できる限界に挑戦した。

<記者履歴>
 85年関西テレビ入社。カメラマン10年、記者、デスク10年。
 震災10年では、遺族の思いと検証を重ね合わせたドキュメント番組「あと1人救えなかったか? −瓦礫に埋もれた命」を担当。

2005年8月29日発行 フジテレビ広報部