FNSドキュメンタリー大賞
2004年4月から厚生労働省は長年の懸案であった臨床研修の義務化に踏み切った。
医師教育の大きな転換期の中で、新人研修医がどのように医師としての第一歩を踏み出し、
歩んでいくのかを見つめる。

第14回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『誰がために〜医師・臨床研修義務化の中で〜』

(制作:仙台放送)

<2006年1月17日(火)深夜2時33分〜3時28分放送>

 1月17日(火)深夜2時33分〜3時28分放送の第14回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『誰がために〜医師・臨床研修義務化の中で〜』(制作:仙台放送)では、“臨床研修義務化”という医師教育の大きな転換期の中で、実際に若き医師たちが医師としてどのように歩んでいくのか? そしてまた、その姿を通し医療とは誰のものなのかを見つめる。

<企画概要>

 昨年から始まった“臨床研修義務化”という医師教育の大きな変化の中で、20年も前から専門に偏らない医師の育成に力を注いできた地方病院の新人医師が、どのように医師としての第一歩を踏み出し育っていくのか。さらに、研修医が総合的に学べないという大学病院の変化や沖縄の離島医療に励む医師の姿を通して、「誰のための医療なのか」を見つめる。

<番組内容>

 医師は初めから医者ではない。患者と向き合い、経験を重ね、知識を吸収し、次第に医者になっていく。
 この医師の育成についてはこれまで明確な基準はなく、人それぞれに任されてきた。これまで、新人医師の7割は大学の医局に入り大学病院で研修してきた。専門細分化された大学病院が多くの医師の最初の医療現場であり、研修の場になってきた。このため臓器や疾患別に細分化した医療の中で、患者を総体として診ることができない医師を長年育ててきたわけだ。
 こうした状況を打開するため、2004年4月から厚生労働省は長年の懸案であった臨床研修の義務化に踏み切った。内科、外科、救急など7つの分野を経験し、専門に偏らない最低限の診療能力を最初の2年間で身につけてもらおうというわけだ。
 番組はこの変化の中で実際に新人研修医がどのように医師としての第一歩を踏み出し、歩んでいくのかを丹念に見つめることを軸に進んでいく。

 宮城県塩竈市の坂総合病院。ベッド数およそ400、医師数70人のうち、その半数が研修医という東北地方では有数の研修病院である。早くから幅広い分野を経験するローテーション研修を行い、これまでに200人以上の医師を育ててきた。今年の研修医は12人。そのうちの一人、秋田大学出身の須貝みさきさん(26)の初めての患者は、89歳の末期ガンのおばあちゃんだった。ガンはすでに手の施しようがなく、体調をいかに整え、患者の願いである「帰宅」を実現させるかが研修医のみさきさんに与えられた課題だった。みさきさんは日に何度もベッドサイドに足を運び、患者の話に耳を傾け、顔色を確認し、病状をチェックした。つまづきながらも「帰宅」に向けた努力を惜しまず続ける。そして3週間後、ついに願いがかなう日が…。
 一方、大学病院は義務化以降、研修医が集まらず大幅な定員割れが起きている。ベッド数1,300、医師数1,000人以上という東北大学病院は、最先端医療を担う全国でも有数の大病院だ。この大学病院は昨年、今年とも定員40人に対し9人しか集まらなかった。そればかりか、昨年の研修医9人のうち3人がすでに研修途中で辞めてしまっていたのだ。これまで医師育成の中心の場だった大学病院から一気に一般病院に研修医が流れ、その割合が今年初めて逆転した。なぜこんなことが起きているのか?
 また、大学に医師の派遣を依存している地方病院では義務化以降、極度の医師不足が起き、診療にも影響が起きている。
 石垣島にある日本最南端の病院、八重山病院に今年も研修を終えた若い医師がやってきた。小林信医師(29)は、東北大卒業後、沖縄県立中部病院で4年間臨床研修を受け、この春、八重山病院に赴任した外科医。沖縄県立中部病院は、沖縄の本土復帰の38年前からアメリカ式の臨床研修に取り組み、これまで700人以上の医師を育ててきた。全国でもっとも人気のある研修病院で、今回義務化された臨床研修のモデルにもなっている。この病院の研修の特徴は救急医療を中心とした徹底した幅広い分野の研修である。小林医師はここで2年間の基本研修とさらに外科の専門研修を2年間受け、一人前の医師として歩き始めた。日本最南端の総合病院には周辺31の島々からさまざまな疾患の患者がやってくる。また高齢化も進んでおり、ただ治せばいいという医療では対応できない難しさを感じながら患者と向き合う。そして赴任して3週間がたった日曜日の朝、患者が急変、小林医師は緊急手術に挑む…。
 沖縄県立中部病院で研修した700人の医師のうち7割が沖縄に留まり、地域医療に取り組んでいる。魅力的な医療の実践は医師を育て、地域の医療そのものをも豊かにしている。
 東北大学病院でも独自の研修に励む研修医がいる。小山康則さん(27)は義務化前に大学の精神科に入った研修医だが、2年の研修期間のうち半年間を救急部の研修に取り組んでいる。精神科では学べない身体についての診療能力を身につけたいというのだ。精神科医といえども専門分野だけでなく、基本的な診療能力をもった医師になりたいというのが小山さんの目指す医師像だ。やけど、中毒、自殺未遂、さまざまな患者がやってくる。専門化の進んだ大学病院では患者を最初から診る機会があるのは実は救急部だけなのだ。そして、救急部の研修をはじめて5ヵ月がたった頃、原因不明の低血圧の患者が運ばれた。指導医から観察を指示され、ベッドサイドで患者を見守っていた時、突然患者の容態が悪化、心肺停止に陥った…。
 東北大学病院では、今、研修医獲得のための努力が始まっている。その切り札が来年2006年秋に開設を予定している救命救急センターである。

 この番組は医師教育の大きな転換期の中で、ベッドサイドで患者と向き合う若き医師たちの姿を通して、医療とは誰のものかを見つめた記録である。

<制作者コメント>

「教育はコピーである。教えられる人は教える人に大きく左右される。どの世界も同じだ。魅力的な医療の現場では魅力的な医師が育つ。魅力的な医師は魅力的な医療を実践する。そこにまた意欲を持った研修医が集まる。しかし、日本の医療の多くは残念ながら教授を頂点にした医局という会社のような組織の中で実施され、教育も行われてきた。それはけっして公平で公正なものではなかった。臨床研修の義務化はそうした日本の医療の内部構造の呪縛を解き放つ絶好の機会になりうる。ある教授の話、先輩医師の法要の席で人が倒れた。医師ばかりが集まっているのに、口々にこう叫んだという。『医者を呼べ! 医者を呼べ!』笑い話であってほしい、と思うのは私だけではないはずだ。」


<番組概要>

◆番組タイトル 『誰がために〜医師・臨床研修義務化の中で〜』
◆放送日時 2006年1月17日(火)深夜2時33分〜3時28分放送
◆スタッフ ディレクター
・撮影
岩田弘史(仙台放送)
植木浩美
    語り 丹野久美子(劇団IQ150主宰)
    音効 佐々木 学(東北共立)
    MA 小峰義央
    DVE 米田邦彦
畠山由美子
    タイトル 菊地新市
    企画・構成
・編集
岩田弘史
    エグゼブティブ
プロデューサー
山並秀昭
    制作 仙台放送

2005年12月16日発行「パブペパNo.05-451」 フジテレビ広報部