FNSドキュメンタリー大賞
人口1700人の福島県昭和村は2人にひとりがお年寄りの村で郵便局は数少ない公的機関で誰からも頼りにされている。
その郵便局が企業的な考えを導入し、大きく変わろうとしている。
国の仕組みが「採算」や「経営主義」に向く中で、地域福祉を目的とした郵便局はどうあるべきなのか?
政府の動きに翻弄され揺れ動く昭和村の郵便局長の視線を通じて地方の将来像を考えていく。

第14回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『拝啓 小泉総理 郵政民営化で何が変わるのですか』

(福島テレビ制作)

<9月16日(金)2時35分〜3時30分>
【9月15日(木)26時35分〜27時30分】放送

 小泉総理が「改革の本丸」と位置付ける郵政民営化。永田町は、大騒ぎが続いていた。それを複雑な想いで見つめていたのは喰丸(くいまる)郵便局の山内久義局長である。喰丸郵便局があるのは福島県昭和村。有数の豪雪地帯のこの村は、実に2人に1人が65歳以上のお年寄りである。ショッピングセンターはおろかスーパーもコンビニもない。急速に過疎と高齢化が進んでいる。
 この村に4つある郵便局の1つが火災で焼失してしまった。郵便物だけではなく、新聞を配達したり、福祉サービスをしたり、村にとって郵便局の局員は情報伝達人であり、頼れる便利屋さんでもある。誰からも慕われ、地域と共に生きてきた存在だ。火災から半年後、日本郵政公社から文書が届いた。焼けた郵便局の廃止通告だった。廃止の理由は「採算性を考えた上での経営判断」。村にとって郵便局はかけがえのない大事な公的機関である。不安が広がった。村の人たちの署名活動もあって、かろうじてこの郵便局の存続は決まったが、一連の騒動は、村の人たちにとっても喰丸郵便局の山内局長にとっても、村と郵便局の関わり合いをあらためて考えるきっかけとなった。
 350兆円にものぼる郵便局の巨額な資金は、第二の国家予算として特殊法人などに流れている。小泉総理は、この資金の流れを絶つことこそが国の構造改革の基本と考えている。そして国民に対し、既存の郵便局に民間の活力を導入し、「コンビニ」や「ファミリーバンク」といった機能を備えた魅力ある存在に変えていきたいと訴えている。また、全国一律のサービスは維持すると言っている。しかし、こうした夢のような郵便局の将来像とは対照的に、競争原理を導入すれば収益性に乏しい過疎地の郵便局は、必然的に淘汰されることにつながるのではないか? 戸惑いは広がるばかりである。全国に2万4千局余りある郵便局。採算で考えると大部分が「赤字」である。昭和村の郵便局も例外ではない。現に「採算」を理由に郵便局の廃止騒動が持ち上がったではないか…。
 山内局長は昭和村で4代続く郵便局長の家に生まれた。自分も家族もそして周辺も山内さんが郵便局長に就くことを誰も疑問に感じなかった。それには「特定郵便局制度」がもつ「官と民の不思議な関係」がある。山内さんは国家公務員。しかし、転勤や部署が変わることはない。郵便局舎やその土地は山内さんのもの。だから、日本郵政公社に土地と建物を貸し出し、賃貸料をもらっている。これが明治以来続く「特定郵便局制度」である。全国の郵便局のうち、およそ8割がこの特定郵便局である。
 郵便局が今、揺らいでいる。そもそも、利益追求を目的としない郵便局。制度上、地域福祉が一番の目的とされ、地域にとけこんでいるがゆえに「閉鎖的」「世襲制」との批判も出たほどだ。しかし、130年余りにわたって郵便局が育んできた歴史とは、地域性を重視することである。それが国家公務員の仕事だと誰も疑問に感じなかった。ところが小泉総理の登場で状況は一変する。「民間でできるものは民間で」を合言葉に持ち株会社・競争・経営判断…。地域との共同体を良しとしてきた郵便局に企業的な考えを取り入れようとしている。
 国の舵取りが大きく変化しようとしている中、郵便局はどうあるべきなのか、そして、過疎地の郵便局の将来は…。9月15日(木)放送の第14回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『拝啓 小泉総理 郵政民営化で何が変わるのですか』(福島テレビ制作)<9月16日(金)2時35分〜3時30分>【9月15日(木)26時35分〜27時30分】では、国の動きに翻弄され、揺れ動く地方の一郵便局の局長の視線を通じて、郵政民営化の議論を見つめていく。

(制作者のコメント)

 「カラムシ織り」のふるさととして知られる福島県昭和村。冬は豪雪に見舞われますが、美しい自然と温かい人情に包まれ、ゆったりとした時間が流れています。
 さまざまなテーマで「都市」対「地方」の対立軸が指摘されていますが、その議論は郵政民営化にもあてはまります。人口が集中し、あらゆる便利な仕組みがそろう大都市に対して、お年寄りだけが残り、郵便局が、住民の大きな心の支え、安心の源となっている過疎地、昭和村の現実。郵政民営化は、何をもたらすのか、過疎化や少子化などで地方は衰退していくだけなのか…。郵政民営化の議論を通じて、地方の将来を考えていきたいと思います。


<プロデューサー> 柿崎浩一(福島テレビ)
<ディレクター> 鈴木宏昭(福島テレビ)
<語り> 藺草英己(福島テレビ)
<撮影> 佐藤静貴(福島映像企画)
<編集> 長瀬勝喜(福島テレビ)
<音響効果> プロジェクト80
<制作> 福島テレビ

2005年9月1日発行「パブペパNo.05-279」 フジテレビ広報部