とある道――。目の前には高いビル。
そのビルの前に座り込んでいる4人の男子中学生、久米、小島、木田、富山。
学校帰りにフラリと立ち寄ったその場所で、彼らは何気ない日常を反芻し、他愛もない会話を繰り返す。
なんとなく、家に帰りたくない。
そんな時、富山が路上に寝転んだまま、動かなくなってしまった。
ビルのベランダには、自殺願望者なのか意味深な行動をする男性。
そして、動かなくなった富山を迎えに、バイトを抜け出してきた姉が現れる。
彼らは夕闇に包まれながら、それぞれの明日を見つめるかのごとく、静かに時間は過ぎていく…。
家に帰りたくない。まっすぐに家族に向き合えない。
でも、誰かの近くにいたいし、話をしたい。
10代のデリケートに揺れ動く心をリアルな会話とみずみずしい感性で描く、衝撃の青春群像劇!!
■ 第1話 ■ (2005年9月14日 01:28〜01:58)
ビルと緑の木々に囲まれた路地。突き当たりには階段があり、その奥は広い空間。
階段には制服姿の中学生たちがたむろしている。彼らはいつも放課後になるとココに来る。
バンドをやりたがっている、久米。
エロビデオが好きで食いしんぼ、木田。
喋るのが嫌いで、暴れん坊、富山。通称・トミー。
その日、またしてもトミーが動かなくなってしまった。トミーがこうやって動かなくなるのは今に始まった事ではない。木田が携帯でトミーの姉に電話すると、姉はバイト先から駆けつけてきた。喫茶店の制服姿の姉は、なんとなく大人の女のにおいがする。トミーには動く気配は無い。バイトを終えて迎えにくるまでトミーを見ていてほしい、と木田と久米に頼んで姉は店に戻っていった。
「何?トミー寝ちゃった?…こりゃかかるね」
姉と入れ違いで小島がやってきた。小島も階段に座ると木田から借りていたアダルトビデオを取り出し、木田に返す。熟女本を貸せと小島が迫るが、クラスメイトにあげたととぼける木田。自分にも貸してほしいと久米も参戦。『OLがメシを食うビデオ』に興奮すると言う木田に、性癖がおかしいと指摘する小島と久米。木田はそのビデオを借りたまま返さないトミーに「返せよ」と迫る。と、トミーはゆっくりと立ち上がり2本指を差し出し、いきなり木田の目をついた。再び寝転んで動かなくなるトミー。名作エロ本『OL身体測定』もトミーで止まっているらしい。トミーの家には生まれたばかりの妹がいる。トミーの父親をエロとからかう小島。トミーは再び暴れてまた動かなくなる。トミーの父親は怖いらしい。トミーに向かって「ウチ…やだ?」と木田が尋ねるが、トミーは虚空を見つめたまま…。
小島は「帰ろうぜ」と言い出すが、トミーの姉が来る事を聞き、一緒に待つことにする。姉が女子高生と聞いて喜ぶ小島だがクラスメイトの高山さんのことはどうするのかと問われた小島は、「いっつも臭い」というおどけギャグでごまかした。突然、久米はバンド話を詰めようと皆に提案。楽器はトミーがドラム、木田はベース、久米と小島はギター。ボーカルは久米でもう1人女性ボーカルを入れたいという。木田はクラスメイトの吉田さんを提案するが、久米はトミーの姉でいいと答える。
おもむろに久米が鞄からテレコを取り出した。
「お前らさ、バンドやるバンドやるって言ってるけど、どうなの。俺はあれ、マジでデビューまで考えているんだけど…コンベンチレーションあんの?」
思わず(え?)となる小島。「コンベンチレーションってなんだっけ?」と木田に聞かれ、『やる気』と答える久米。得意気に話す久米だが、コンベンチレーションという言葉が本当は「モチベーション」だということを気付かないまま、もっともらしい会話はつづく。楽器を買うために金を貯めるように皆に告げる久米。
「ドラムって超高いんでしょ?」と木田。
トミーに「大丈夫だよな」と問う久米に、「いじめんなよ。トミーんち貧乏なんだぜ」と木田。木田がトミーの家に行った時の話を始める。
「トミーの家超狭いよ。なんか、カーテンみたいので普通に部屋とか仕切ってんの。隣に母ちゃんとか超いんの」
更に父親は怖いし、ドラムも置けないとつづけるが、結局ドラムはトミーというところで、話はまとまる。
バンドの名前から決めようとする木田と小島に、久米は曲を聞いてから決めようと提案。自分で作った曲を聞かせようとするが、照れてなかなかテレコのスイッチを押さない。さほど興味を示さない小島と木田にショックを受けている久米を見て「聴かせてよ」とスイッチを押そうとする木田。久米はそれを制して、すねたように再生ボタンを押す。
久米の歌声が流れ出す。曲名は『想像してみろ』。
あまりの歌声に、小島と木田は沈黙。
「これにドラムとかギターとかベースが入るから全然違うんだけど」
弁解がましく応える久米。2曲目のメローなラブソングが流れてくる。思わずテレコを取りあげようとする小島とそれを制する久米が激しくもみ合い、トミーを巻き込んでいく。
騒ぎが収まり、「これ、なんて曲?」と問う小島に久米が答える。
「『ベーゼ』」
と、突然立ち上がるトミー。階段を下りてそのまま通りに向かって歩いていく。
階段に座ったままの久米、小島、木田。
「まあ鞄あるしさあ…帰ってくるよ。」
遠ざかるトミーの背中を見送る3人だった。
■ 第2話 ■ (2005年9月21日 01:28〜01:58)
いつもの路地。階段に座っている久米、小島、木田。
彼らはもみ合いの末、鞄を残し去っていったトミーを他愛も無い話をしながら待っている。
と、突然、トミーが路地に向かって思い切り走りこんでくる。驚いて腰を浮かす3人。トミーの顔は血と泥でひどく汚れている。相変わらず何も話そうとせず、路上に座り込んでしまうトミー。小島がトミーの拾ってきた汚いペットボトルを手にとる。
「100%ピュア…エキストラバージン…オリベ?」
「バージン?」思わず反応してしまった木田。
「あ、オリベ油?」知ったかぶりで口を出す久米。
木田がトミーの汚れた顔をタオルで拭いてやると、トミーは半身を起こし、上を凝視し始めた。ビルのテラスには手すりにもたれた人影がある。
「おっさん?」
「ゾクだな。窓際族」
「自殺だろ自殺」
「ビートルズって屋上でライブやったんだぜ」
「立ち入り禁止じゃねえの?」
「いや、立ち入り禁止だからとかじゃないんだよ。ビートルズぐらいになってくると」
他愛の無い話の尽きない3人をよそに、トミーが再び路上に寝転がる。放置されている粗大ゴミのソファーに座る3人。
「お前、高校どうすんの?…つうか入れんの?」と久米に問う小島。
「親みたいなこと言うなよ…俺、中学受験駄目だったじゃん。その事とか言ってくるし。試験のこととかも言ってくるしさ、ほんと死にたくなるよ……トミーとかいいよな…なんか自由じゃん」
路上の虫を見つめているトミーをじっと眺める3人であった。
そこへ高校の制服姿でトミーの姉が現れる。姉はトミーの頬の汚れをハンカチで拭きつつ、トミーを動かそうとするも全く動く様子が無い。姉の制服姿に惹かれる小島。自分も拭いて欲しいと言う木田。皆、年上の女性としてトミーの姉に興味津々である。小島が久米にバンドのボーカルになってもらう話をしなくていいのか?と問うが、なかなか切り出せない。動かないトミーに業を煮やした姉は、3人のいるソファーへと向かう。
「この場所なんかあるんすかね?」
この前もトミーが動かなくなった場所は同じ場所だった。皆でトミーを動かそうということになり、4人はトミーの周りに集まる。トミーを持ち上げる事は出来たものの、そこからどこかへ移動するでもなく、仕方なくその場に下ろす4人。久米がトミーの頬を人差し指で突いた瞬間、暴れだすトミー。木田にソファーへ投げ出されたトミーはその場で動かなくなる。あきれ顔の姉と小島、木田はトミーのそばへ、久米は階段に座る。
姉がトミーを動かそうと太ももをつねるがやはり動かない。それを見て「俺にも(つねって)」と思わず口にする木田に、「…お前やっぱ性癖がおかしいぞ」と小島がつぶやく。と、その時、頭上を見上げるトミー。それにつられて見上げる4人。男が再びテラスに現れたのだ。姉がポツリとつぶやく。
「中学生の頃、自殺あったんだよ…多分、ここら辺に…」
「…あの人、俺らがどくの待ってんのかな?」
「…やだな」
いつの間にかトミーの視線は路上の一点に集中している。
「…何か…たまにじーっと見てんだよ…ちっちゃい時から…」と姉。
「何を…?」
「…見えないもの」
トミーのそばにいた小島が気味悪げに立ち上がり、皆のいる階段の方へ移動する。
沈黙の5人。トミーは何かに憑かれたかのようにじっと一点を見つめている。
■ 第3話 ■ (2005年10月19日 00:58〜01:28)
いつもの階段に座っている久米、小島、木田とトミーの姉。トミーはソファーに横たわっている。トミーの父親がハゲと判明。「ハゲたらズラかぶればいいじゃん」とトミーの姉。他愛も無い会話が続いて行く。
「お前、あの話しなくていいの?」と小島。自分たちのバンドへトミーの姉にメンバーとして加わって欲しい、という話のことだ。そこで、ようやく久米が姉にその話を切り出すが、うまく言葉にできないうちに話は反れてしまう。
「お前、なんかトミーに用があるんじゃないの?」
小島と久米は木田がトミーに貸したエロ本とビデオを返してもらっていない事を話し出す。何を借りているのかという姉の追及に焦る木田がしどろもどろに話し出す。
「なんか、あんま俺のじゃないから、わかんないんだけど。なんか、会社の働くところを紹介します!みたいな本。オーエル?なんかOL何とかっていう題名だった…トミーに頼まれて…それもトミーに貸したから中身とかはわかんないけど…」
姉は自分が家から取ってくると言い残し、その場を後にする。姉の後ろ姿を見送った木田は、ため息をついて久米と小島を見る。
「超汗かいたよ。何とかごまかしたけど…でもトミー可哀想じゃねえ?」
姉にエロ本を見られてしまうことが可哀想だと言いつつも、もし姉がエロ本を持ってきたら「興奮するよね」と思わず言ってしまう木田だった。
「ねぇ、生ってエロくない?」と久米が言い出した。頭に「生」がつくとエロいとつづける久米。「生暖かい」「生ぬるい」「生足」「生チチ」「生肉」「生あたたかい生肉」「生暖かい生肉の生ゼリー寄せ」生ジャケ、生牡蠣、生赤貝、生きくらげ、なましろきくらげ…。
「生臭い」と、思わず木田が言った。「生臭い」のどこがエロい?と2人につっこまれ、木田は続けて「生着替え」と答えるが…
「無理に普通のこと言うなよ」
「自分殺したし」
2人に性癖がおかしいと言われてしまう木田だった。
トミーの姉が結構いいと言い出す小島。「バンド内恋愛禁止」と言う久米。
「お前、高山さんはどうすんだよ!」と木田。
小島が高山さんに告白したにも関わらず、小島の高山さんに対する態度が冷たいと続ける木田。「好きなんだろ?(木田が高山さんのことを)」と小島。木田は自分には関係ないが高山さんが可哀想だと言う。
小島は先日、古典の宿題をやってこなかった高山と一緒に職員室に誤りにいった時のことを語りだす。その時、怒っている先生に対して媚びた笑顔で対応する高山の顔を見て、好きという感情がなくなってしまったと告白する。ほんの些細なことが原因で恋愛感情が消えてしまった。
小島が階段を上って行くと、そこは川の堤防。目の前には静かな川面が広がっている。
久米が歩み寄ってきて、小島の肩をたたく。
「忘れるよ、そのうち(高山さんのその顔)」
変な顔を見たからといってトミーの姉ちゃんを狙うのは高山さんが可哀想だと木田が言う。
「告れよ(高山さんに)」と小島。「告んねえよ」と木田。
「俺、吉田さんがいい」と、思わず告白したのは久米。久米の言葉に2人は落ち着きを取り戻す。
「お前らもさ、そういう恋とかいっぱい経験してさ、つらい事とか、素敵なこととか、これから詩とか書く時にさ、そのときの気持ち思い出してさ。それが素敵な言葉になっていくんだよ」
ふと、久米が遠くを見つめると、その視線の先には両手を広げバランスを取りながら、堤防の上を歩いてくるトミーの姉がいた。
「女の人ってさあ…キレイだよなあ。…俺、いい詩が書けそうな気がする」
姉が笑顔で手を振り、また歩き出した。久米、小島、木田が引き込まれるように姉を見つめている。
■ 第4話 ■ (2005年10月26日 00:58〜01:28)
久米、小島、木田は堤防の上を歩いてくるトミーの姉を見つめている。姉は軽やかに堤防から飛び降りる。トミーはソファーに寝そべったまま。
姉は家から持ってきたエロ本を木田に手渡す。ビデオは(置いてある場所が)わからなかったという。4人は階段を降りてきて、トミーの前に座り込んだ。ふと、見上げるとビルのテラスにまた人影が見える。
「…自殺?」と小島。「つうかリストラくらいで死ぬんだな」と久米。飛び降り自殺する間に、気を失うらしいよ、と言い出す姉。と、その時、テラスの男が5人に向かってしっしっと手を振った。
「やっぱ、どいてほしかったんだ」
「飛び降りるんだ」
テラスの反対側(自分たちがいない場所に)飛べばいいのに、と言い出す久米。小島と木田が久米と一緒に「反対に飛べ!」「ヨコー、横―」とテラスの男に呼びかけると、何かが上空から落ちてきた。テラスにはもう人影が見えない。
「餃子?」小島が落ちてきた餃子に指をつけ、口に含んだ。
「シュウマイではない、ニラが入っている」
「意味わかんねえな」
「ダイニングメッセージ」
木田は「ダイイングメッセージ」を「ダイニングメッセージ」と間違えていることに気がついていない。
「…なんか危ないからさ、みんな帰んな」と言い出した姉に、小島は大丈夫と答える。皆は口にはしないが、トミーが起きるまで待っているのだ。彼らの不器用な優しさが漂ういつもの路地は静かに時が流れていく。
ふと、久米のテープレコーダーに気付いた姉。久米は得意げに自分が曲を作り、作詞もしていると自慢する。新曲が入っているテレコを久米から奪い再生する小島。取り戻そうとする久米。木田も加わってのもみ合いになる3人。
落ち着きを取り戻し3人。再びバンドの話になると、バンドに女性ボーカルが欲しいので姉に加わって欲しいと言い出す木田。
「むりむりむり…やりたいけど、お金ないし…。無理だね。宏明も無理だと思うよ」
姉からトミーが高校に行かせてもらえず、就職するという事実を知った3人はトミーに「サラリーマン?」「銀行員?」「会社員?」などと質問攻め。トミーは耳を押さえ、「あーーー」と声を発した後、虚空を見つめた。これが、今の久米たちにできるやさしさの表現なのかもしれない。その場の空気をなごませるための…。
再び路地に座り込んでいる久米たち。ふと、餃子の匂いが気になりだした。木田と久米はゼリーの入っていたビニール袋を餃子にかぶせ、餃子の墓を作る。
バンドは「(久米、小島、木田の)3人でやるの?…男3人かよ…」と小島が言いだした。突然小島に飛び掛るトミー。つづいて、木田、久米にも飛びかかるトミーは激しく動いた後に、地面に大の字になって横たわった。
「なんだよ…なに?(何考えてんのこいつ?)」と小島。
「トミー起きろよ」と久米。
姉は大の字になっているトミーにまたがり頬をたたいた。
「起きな!」
「やだ!」
「何が!?バンドが出来ないこと?!就職?貧乏?母ちゃん?父ちゃん?それともワタシ?なんなの?!」
見合う姉とトミー。と、背後から木田がそっとつぶやいた。
「あの…生まれてきたこと…」
瞬間、動きが止まる姉。俯く木田。と、そこに、再び上空から何かが落ちてきた。今度は刺身だ。姉は刺身を鷲づかみにしてソファーに向かって投げつけた。
「なんなの!」
怒りと悔しさ、切なさなどのどうしようもない感情が姉の中に溢れる。
「…めんどくさい」とつぶやく姉。「(バイト)さぼっちゃえば」と小島。
「むりむり…いろいろ…あるから大人になると」と姉。
「大人って、もっと大人だよ」と久米。
刺身を餃子の墓と一緒にし、火葬を始める木田と久米。暗闇の中にオレンジ色の炎が揺れ動く。それを見つめる久米、小島、木田、姉。――ゆっくりと半身を起こして、炎を見つめるトミー。5人ははじめて同じモノを見つめた。
姉が言う。
「そっか…子供だよね。まだ…」
まだ子供である――ということが微かな希望。
夜空の下…5人は燃え続ける小さな墓を見つめている。