アットホーム・ダッド
#5 産みの母より主夫
優介(宮迫博之)がカラフルな新品の水着でスイミングプールに現れた。健児(永井 大)が値段をたずねると、優介の表情が曇った。実は笙子(中島知子)には安い値段だと嘘をついたのだ。「自分のもの買うの、後ろめたいんだよ」。言われてみれば和之(阿部 寛)も最近遠慮して自分のものを買っていない。「気兼ねなく使える金がほしいから、パソコン教室でも通おうかなと思って。手に職つけて働くんだよ」。優介はもらした。
美紀(篠原涼子)は、産婦人科から出てきた笙子とばったり出くわした。「できちゃったみたい」。けれど笙子の表情は浮かない。会社の仕事が忙しく、産休などとても無理。「だから、しばらく優介には内緒ね」「わかった」。美紀は約束すると、笙子から「もう必要ないから」と妊娠判定薬をもらった。
それが和之に見つかってしまい、誤解をとくには本当のことを言うしかなかった。「笙子さん、妊娠してるの。でも優介さんには言っちゃダメよ」。
一方、お隣りの杉尾家では妊娠をどう打ち明けようかと悩みながら笙子が帰宅してみると、優介がこそこそとお金を隠していた。「もしかしてへそくり?」笙子が問いつめると優介はあっさり白状した。パソコン教室に通いたいので、その受講料を家計をやりくりして貯めていたのだ。「なんだ、だったら早く言えばいいのに。残りは私が出してあげるよ」。笙子は拍子抜けしたが、妊娠のことは言いそびれてしまった。
翌朝、笙子が通勤途中に腹部を押さえてうずくまった。美紀が産婦人科に付き添っていくと、幸い大事には至らずにすんだ。「・・・優介さんに来てもらおうか?」。
けれど昨夜のやりとりが頭をよぎった笙子は首を横に振った。「あいつ色々考えてるみたいなのよ。少しは自由にさせてあげないと・・・」。
同じ頃、優介は和之にそれとなく探りをいれていた。「おたくの奥さん、笙子から何か聞いてない?」「えっ」。和之がとぼけたものだから、優介は悪い想像をふくらませた。「もし笙子から離婚を言いだされたら、生きていけないよ。主夫って弱い立場だよな」。優介は落ち込んでいたが、和之は美紀と約束した手前、のど元まで出かかった言葉をのみこんだ。
2人が真理江(川島なお美)のスイーツクラブに顔を出すと、奥さんたちは子供の産み分け法の話題で盛り上がっていた。「男性がいたのを忘れてたわ」。和之も優介も男性として見られていない証拠。「ああいう場では男を捨てなきゃ、ママ友とは仲良くつきあえないよ」。優介は割りきっていたが、和之は釈然としない。
和之が帰宅すると冴子(滝沢沙織)が家庭訪問にやって来た。「理絵ちゃん、お父さんとお母さんが交代されたのにも慣れてきたようです」。まもなく母親参観日があるという。「伝えておきます」。その夜、美紀は包みを抱えて帰ってきた。「給料日だったから」。理絵には洋服。「あなたにはこれ!」。包みから出てきたのは万能包丁・・・。
和之は何も言えなかった。
笙子はようやく優介に妊娠を打ち明けた。ご飯の匂いに吐き気をもよおしたので優介が気づいたのだ。一瞬たじろいだが、笙子の前で喜んで見せた優介は、和之を誘いだした。「子供ができたんだ」。けれど優介は沈んだ表情。「笙子におめでとうって言えなくてさ。俺、家事と子育てで一生終わっていいのかな」。何かと肩身の狭い主夫同士。そろってハローワークに出かけたが、なかなか条件に見合う仕事はない。
「ガーンと稼いで笙子と交代したかったけど、甘かったよ。家事なら替われるけど、お産だけは無理だからなあ」。和之は励ましてやりたいが言葉が出てこない。ぼう然と立ち尽くす2人を昼休みのサラリーマンの群れが足早に追い越していった。和之は、なんとか力になってやりたいが妙案がなかなか浮かばない。
「やっぱり無理だと思う」。それが笙子の結論だった。仕事の予定から出産しても育児はすべて優介に任せることになってしまう。
「優介に犠牲になってほしくないの。残念だけどあきらめよう。」
優介は、笙子に安心して出産させてやれない自分が情けなかった——。
美紀(篠原涼子)は、産婦人科から出てきた笙子とばったり出くわした。「できちゃったみたい」。けれど笙子の表情は浮かない。会社の仕事が忙しく、産休などとても無理。「だから、しばらく優介には内緒ね」「わかった」。美紀は約束すると、笙子から「もう必要ないから」と妊娠判定薬をもらった。
それが和之に見つかってしまい、誤解をとくには本当のことを言うしかなかった。「笙子さん、妊娠してるの。でも優介さんには言っちゃダメよ」。
一方、お隣りの杉尾家では妊娠をどう打ち明けようかと悩みながら笙子が帰宅してみると、優介がこそこそとお金を隠していた。「もしかしてへそくり?」笙子が問いつめると優介はあっさり白状した。パソコン教室に通いたいので、その受講料を家計をやりくりして貯めていたのだ。「なんだ、だったら早く言えばいいのに。残りは私が出してあげるよ」。笙子は拍子抜けしたが、妊娠のことは言いそびれてしまった。
翌朝、笙子が通勤途中に腹部を押さえてうずくまった。美紀が産婦人科に付き添っていくと、幸い大事には至らずにすんだ。「・・・優介さんに来てもらおうか?」。
けれど昨夜のやりとりが頭をよぎった笙子は首を横に振った。「あいつ色々考えてるみたいなのよ。少しは自由にさせてあげないと・・・」。
同じ頃、優介は和之にそれとなく探りをいれていた。「おたくの奥さん、笙子から何か聞いてない?」「えっ」。和之がとぼけたものだから、優介は悪い想像をふくらませた。「もし笙子から離婚を言いだされたら、生きていけないよ。主夫って弱い立場だよな」。優介は落ち込んでいたが、和之は美紀と約束した手前、のど元まで出かかった言葉をのみこんだ。
2人が真理江(川島なお美)のスイーツクラブに顔を出すと、奥さんたちは子供の産み分け法の話題で盛り上がっていた。「男性がいたのを忘れてたわ」。和之も優介も男性として見られていない証拠。「ああいう場では男を捨てなきゃ、ママ友とは仲良くつきあえないよ」。優介は割りきっていたが、和之は釈然としない。
和之が帰宅すると冴子(滝沢沙織)が家庭訪問にやって来た。「理絵ちゃん、お父さんとお母さんが交代されたのにも慣れてきたようです」。まもなく母親参観日があるという。「伝えておきます」。その夜、美紀は包みを抱えて帰ってきた。「給料日だったから」。理絵には洋服。「あなたにはこれ!」。包みから出てきたのは万能包丁・・・。
和之は何も言えなかった。
笙子はようやく優介に妊娠を打ち明けた。ご飯の匂いに吐き気をもよおしたので優介が気づいたのだ。一瞬たじろいだが、笙子の前で喜んで見せた優介は、和之を誘いだした。「子供ができたんだ」。けれど優介は沈んだ表情。「笙子におめでとうって言えなくてさ。俺、家事と子育てで一生終わっていいのかな」。何かと肩身の狭い主夫同士。そろってハローワークに出かけたが、なかなか条件に見合う仕事はない。
「ガーンと稼いで笙子と交代したかったけど、甘かったよ。家事なら替われるけど、お産だけは無理だからなあ」。和之は励ましてやりたいが言葉が出てこない。ぼう然と立ち尽くす2人を昼休みのサラリーマンの群れが足早に追い越していった。和之は、なんとか力になってやりたいが妙案がなかなか浮かばない。
「やっぱり無理だと思う」。それが笙子の結論だった。仕事の予定から出産しても育児はすべて優介に任せることになってしまう。
「優介に犠牲になってほしくないの。残念だけどあきらめよう。」
優介は、笙子に安心して出産させてやれない自分が情けなかった——。