顔
#5 封印したはずの昔の顔
資産家ばかりを狙った連続強盗事件が続いていた。三人組の黒装束の賊が手際よく侵入し現金や貴金属ばかりを強奪する。被害者の命には別状がなかったが、耕輔(オダギリジョー)たちの緊張はピークに達していた。
そんなころ、瑞穂(仲間由紀恵)は広報誌の特集のため南横浜署の梶間刑事(石橋蓮司)を取材することになった。梶間は県下ナンバー1の検挙数を誇っているのに、所轄を動かず、出世に興味ないが口癖の変人・名物刑事だった。
梶間はよれよれのジャケットを着込んだ、ちょっと見には刑事に見えない強面の中年男だった。瑞穂を無視してズンズン夕刻の横浜の繁華街を歩いて行く。呼び止める瑞穂に「馬鹿か! 制服のお前が声を掛けるな! デカと宣伝してるようなもんだ」と一声恫喝する。さらに通り掛ったチンピラを脅し小遣いを巻き上げる。どうも敏腕刑事の額面だけではなさそうだ。
唖然として梶間を見送る瑞穂が肩を叩かれた。内村(海東健)である。内村は、梶間の黒い癒着など影の部分を追っているのだと言う。
一方、連続強盗捜査で、耕輔は加奈子(京野ことみ)と、尾崎(品川祐)は相田(黒坂真美)とカップルを装い、深夜の高級住宅街を車で巡回していた。物陰にナンバーを隠した不審なワゴン車が停まっている。刑事たちは車を降り張り込みを始めた。
そのころ、瑞穂は梶間と汚い焼肉屋にいた。煙に咽びながら、「あなたは最低の刑事です。癒着できなくなるから本部に上がらないんですね!」と梶間を問い詰める。梶間は「お嬢ちゃんみたいな正義感の塊の嫌な女には、悲しみ苦しみを持った奴は近づかないんだよ。小悪は見逃すものだ」と梶間が言うと「それは妥協だ」と瑞穂も切り返す。梶間は「相手にしているのは、モノじゃなく、どす黒い情念を持った人間なんだ」とピシャリと瑞穂の反論を断った。
ワゴン車が動き出した。耕輔たちは覆面パトで尾行を始めた。一人、しばらく進むとまた一人とワゴンの中から男が降り立つ。二人目の男は偶然、梶間と瑞穂の近くでワゴンを後にした。梶間の携帯に指令が入り、二人はカップルを装って男の尾行を開始した。
ワゴン車が停まり最後の男が降りた。耕輔と加奈子もカップルとなって尾行を始めた。
梶間と瑞穂は二股の道で男を見失った。二人は別々の道に分かれて追う。
一方、耕輔は、振り向いた男に気付かれないように加奈子を抱きしめるが、加奈子は慌てて声を上げてしまう。男はどうやら、二人をカップルと思ったらしく近くのコンビニに入って行った。耕輔は急な対応が取れなかった加奈子を許さず、追加の応援を頼むと、冷たく加奈子を帰署させた。
瑞穂は、反対側で人の争う声を聞いた。走ってその方向へ向かうと、腹を刺されて倒れている梶間が・・・・・・。その前で仁王立ちになっている男が言う。
「青い鳥は、お前の自己満足のためにあるんじゃない!」
男は手にしたナイフでさらに梶間を襲おうとするが瑞穂を見つけ走り去った。梶間は瑞穂に「何も聞いてないよな」と囁き意識を失った。
瑞穂も出席し捜査会議が開かれた。ワゴンの3人組はやはり現場付近で同様手口の押し込み強盗を働いていた。その中で、梶間刑事と梶間を刺した男は、梶間に吐いた捨て台詞から考えても何らかの接点があるに違いないという結論に達し、瑞穂がその男の似顔絵を描くことになった。
鶴田(益岡徹)が梶間が担当した12年前の事件を調べていた。どうもこの事件の火種がくすぶっているのだと鶴田はにらんでいた。そこへ本間課長(升毅)が現れた。本間は珍しく「私は止めないよ」と鶴田を牽制しなかった。
朝までかかって、似顔絵を描き終わった瑞穂と耕輔も、梶間が変節したのは過去の事件に関係があるのではと意見を交わしていた。
鶴田は引っ掛かった梶間の過去の事件を耕輔たちに示した。それは「三友銀行員刺殺事件」である。12年前、三友銀行融資課長が刺殺された。梶間は容疑者の工場主・栗山信吾(持田篤)を調べていたが、栗山はアリバイとして河合代議士(森富士夫)の事務所に選挙の裏金を取り立てに行っていたという。が、河合はそれを一切否定。栗山は逮捕の前日、自殺したのだった。栗山の顔写真は、描き上がったばかりの似顔絵と似ていた・・・・・・。栗山には当時6歳の息子・信一がいた。耕輔は似顔絵の主は成長した信一(反田孝幸)ではないかと睨んだ。
瑞穂が退署しようとした時、内村が声を掛けてきた。ここ4、5年梶間はある暴力団を内偵していた。その暴力団は河合代議士と強い繋がりがあると言うのだ。
耕輔と瑞穂は、事件後、信一が預けられた養護施設へ向かった。施設の入り口に普通の形ではないポストがあった。それは「青い鳥」の形をしていた! 園長の説明によるとそのポストは「親と子をつなぐポスト」だと言う。基本的には子供からの手紙が「投函」されるだけで、それは園長らが子供たちに分からぬように取り出していた。梶間に関しては、信一に会いに来ていたかもしれないが、記憶にはないと言う。さらに園長は、遠い記憶を呼び戻した。信一は、父親が自分の潔白を証明するノートを書いていたと警察で証言したにも関わらず、そのノートが見つからず捜査は栗山に不利なまま進んだというのだ。
園長は、信一が「青い鳥」ポストに投函した手紙を二人に見せながら衝撃の事実を話した。「父親の自殺体を発見したのは信一だったんですよ」。瑞穂は驚いたが、それ以上に耕輔の反応は異常だった。呼吸を荒くしその場を立ち上がったかと思うと、ヨロヨロと外に出、頭を抱えて塀にもたれ掛かる。「大丈夫だ、ほっといてくれ」。耕輔の過去に何があるのか・・・・・・。
帰りながら、瑞穂は推理した。「梶間さんは『青い鳥』ポストで信一君の資金援助をしていたのかも。それがいつか信一君に分かった。信一君はその行為を、父親を自殺に追い込んだ刑事の自己満足と受け取ったのでは・・・・・・」
耕輔は「栗山は他殺だ」と遮った。「6歳の信一がとっさに嘘をつけるわけがない。河合代議士は、栗山のアリバイを認めたら裏金を認めることになり、代議士生命に関わる。栗山との面会など以ての外、栗山もノートも、関係証拠はあってはならないのだ」
瑞穂は、河合と関係する暴力団を梶間が内定していた理由がそこにあると理解した。
耕輔と瑞穂は、信一が働いている「便利屋」に向かった。しばらくして不用品回収から信一が戻って来た。信一はナイフを耕輔に向ける。「ノートのことを聞きに来た」と耕輔。「君の協力が必要なんだ」
「梶間もそう言った。でも何も出来なかった。うそつきばかりだ」
自分の首にナイフを当てる信一を見て、耕輔はとっさに嘘をついた。「梶間は死んだ」
信一はひるんだ。耕輔はナイフを払い落とし、それを瑞穂が拾う。
「梶間さんは12年間悔やみ続けて一人であの事件の捜査を続けているのです。警察は今度こそ真相を究明します。梶間さんの意識が戻ったそうです」と瑞穂。
信一は覚悟を決めた。
その後、捜査は進み、河合代議士は汚職で逮捕された。
瑞穂は、そんなころ、樋口(余貴美子)に養護施設に行ったときの耕輔の様子の急変を話した。樋口は幼児期のどこかに問題があると想像する。瑞穂は、その夕刻、耕輔に自分が信一のように養護施設にいたことを徒然に話す。そんな二人を樋口は陰から眺めているのだった。
そんなころ、瑞穂(仲間由紀恵)は広報誌の特集のため南横浜署の梶間刑事(石橋蓮司)を取材することになった。梶間は県下ナンバー1の検挙数を誇っているのに、所轄を動かず、出世に興味ないが口癖の変人・名物刑事だった。
梶間はよれよれのジャケットを着込んだ、ちょっと見には刑事に見えない強面の中年男だった。瑞穂を無視してズンズン夕刻の横浜の繁華街を歩いて行く。呼び止める瑞穂に「馬鹿か! 制服のお前が声を掛けるな! デカと宣伝してるようなもんだ」と一声恫喝する。さらに通り掛ったチンピラを脅し小遣いを巻き上げる。どうも敏腕刑事の額面だけではなさそうだ。
唖然として梶間を見送る瑞穂が肩を叩かれた。内村(海東健)である。内村は、梶間の黒い癒着など影の部分を追っているのだと言う。
一方、連続強盗捜査で、耕輔は加奈子(京野ことみ)と、尾崎(品川祐)は相田(黒坂真美)とカップルを装い、深夜の高級住宅街を車で巡回していた。物陰にナンバーを隠した不審なワゴン車が停まっている。刑事たちは車を降り張り込みを始めた。
そのころ、瑞穂は梶間と汚い焼肉屋にいた。煙に咽びながら、「あなたは最低の刑事です。癒着できなくなるから本部に上がらないんですね!」と梶間を問い詰める。梶間は「お嬢ちゃんみたいな正義感の塊の嫌な女には、悲しみ苦しみを持った奴は近づかないんだよ。小悪は見逃すものだ」と梶間が言うと「それは妥協だ」と瑞穂も切り返す。梶間は「相手にしているのは、モノじゃなく、どす黒い情念を持った人間なんだ」とピシャリと瑞穂の反論を断った。
ワゴン車が動き出した。耕輔たちは覆面パトで尾行を始めた。一人、しばらく進むとまた一人とワゴンの中から男が降り立つ。二人目の男は偶然、梶間と瑞穂の近くでワゴンを後にした。梶間の携帯に指令が入り、二人はカップルを装って男の尾行を開始した。
ワゴン車が停まり最後の男が降りた。耕輔と加奈子もカップルとなって尾行を始めた。
梶間と瑞穂は二股の道で男を見失った。二人は別々の道に分かれて追う。
一方、耕輔は、振り向いた男に気付かれないように加奈子を抱きしめるが、加奈子は慌てて声を上げてしまう。男はどうやら、二人をカップルと思ったらしく近くのコンビニに入って行った。耕輔は急な対応が取れなかった加奈子を許さず、追加の応援を頼むと、冷たく加奈子を帰署させた。
瑞穂は、反対側で人の争う声を聞いた。走ってその方向へ向かうと、腹を刺されて倒れている梶間が・・・・・・。その前で仁王立ちになっている男が言う。
「青い鳥は、お前の自己満足のためにあるんじゃない!」
男は手にしたナイフでさらに梶間を襲おうとするが瑞穂を見つけ走り去った。梶間は瑞穂に「何も聞いてないよな」と囁き意識を失った。
瑞穂も出席し捜査会議が開かれた。ワゴンの3人組はやはり現場付近で同様手口の押し込み強盗を働いていた。その中で、梶間刑事と梶間を刺した男は、梶間に吐いた捨て台詞から考えても何らかの接点があるに違いないという結論に達し、瑞穂がその男の似顔絵を描くことになった。
鶴田(益岡徹)が梶間が担当した12年前の事件を調べていた。どうもこの事件の火種がくすぶっているのだと鶴田はにらんでいた。そこへ本間課長(升毅)が現れた。本間は珍しく「私は止めないよ」と鶴田を牽制しなかった。
朝までかかって、似顔絵を描き終わった瑞穂と耕輔も、梶間が変節したのは過去の事件に関係があるのではと意見を交わしていた。
鶴田は引っ掛かった梶間の過去の事件を耕輔たちに示した。それは「三友銀行員刺殺事件」である。12年前、三友銀行融資課長が刺殺された。梶間は容疑者の工場主・栗山信吾(持田篤)を調べていたが、栗山はアリバイとして河合代議士(森富士夫)の事務所に選挙の裏金を取り立てに行っていたという。が、河合はそれを一切否定。栗山は逮捕の前日、自殺したのだった。栗山の顔写真は、描き上がったばかりの似顔絵と似ていた・・・・・・。栗山には当時6歳の息子・信一がいた。耕輔は似顔絵の主は成長した信一(反田孝幸)ではないかと睨んだ。
瑞穂が退署しようとした時、内村が声を掛けてきた。ここ4、5年梶間はある暴力団を内偵していた。その暴力団は河合代議士と強い繋がりがあると言うのだ。
耕輔と瑞穂は、事件後、信一が預けられた養護施設へ向かった。施設の入り口に普通の形ではないポストがあった。それは「青い鳥」の形をしていた! 園長の説明によるとそのポストは「親と子をつなぐポスト」だと言う。基本的には子供からの手紙が「投函」されるだけで、それは園長らが子供たちに分からぬように取り出していた。梶間に関しては、信一に会いに来ていたかもしれないが、記憶にはないと言う。さらに園長は、遠い記憶を呼び戻した。信一は、父親が自分の潔白を証明するノートを書いていたと警察で証言したにも関わらず、そのノートが見つからず捜査は栗山に不利なまま進んだというのだ。
園長は、信一が「青い鳥」ポストに投函した手紙を二人に見せながら衝撃の事実を話した。「父親の自殺体を発見したのは信一だったんですよ」。瑞穂は驚いたが、それ以上に耕輔の反応は異常だった。呼吸を荒くしその場を立ち上がったかと思うと、ヨロヨロと外に出、頭を抱えて塀にもたれ掛かる。「大丈夫だ、ほっといてくれ」。耕輔の過去に何があるのか・・・・・・。
帰りながら、瑞穂は推理した。「梶間さんは『青い鳥』ポストで信一君の資金援助をしていたのかも。それがいつか信一君に分かった。信一君はその行為を、父親を自殺に追い込んだ刑事の自己満足と受け取ったのでは・・・・・・」
耕輔は「栗山は他殺だ」と遮った。「6歳の信一がとっさに嘘をつけるわけがない。河合代議士は、栗山のアリバイを認めたら裏金を認めることになり、代議士生命に関わる。栗山との面会など以ての外、栗山もノートも、関係証拠はあってはならないのだ」
瑞穂は、河合と関係する暴力団を梶間が内定していた理由がそこにあると理解した。
耕輔と瑞穂は、信一が働いている「便利屋」に向かった。しばらくして不用品回収から信一が戻って来た。信一はナイフを耕輔に向ける。「ノートのことを聞きに来た」と耕輔。「君の協力が必要なんだ」
「梶間もそう言った。でも何も出来なかった。うそつきばかりだ」
自分の首にナイフを当てる信一を見て、耕輔はとっさに嘘をついた。「梶間は死んだ」
信一はひるんだ。耕輔はナイフを払い落とし、それを瑞穂が拾う。
「梶間さんは12年間悔やみ続けて一人であの事件の捜査を続けているのです。警察は今度こそ真相を究明します。梶間さんの意識が戻ったそうです」と瑞穂。
信一は覚悟を決めた。
その後、捜査は進み、河合代議士は汚職で逮捕された。
瑞穂は、そんなころ、樋口(余貴美子)に養護施設に行ったときの耕輔の様子の急変を話した。樋口は幼児期のどこかに問題があると想像する。瑞穂は、その夕刻、耕輔に自分が信一のように養護施設にいたことを徒然に話す。そんな二人を樋口は陰から眺めているのだった。