あらすじ
<第4回> <第5回> <第6回>

<第4回> 「忘れられない人」
 「寝てないよね」「酔いつぶれて意識もない女とやる趣味はないよ」。天羽(田辺誠一)のベッドで目覚めたあたる(菅野美穂)はあわてた。酒を飲みながら店番しているうちに寝てしまったらしい。「お前、やって欲しかった訳?」。天羽はおかしそうに笑った。どうやら何事もなかったようだ。

 カヲル(押尾学)と一夜を共にした洋子(山本未来)は、カヲルが寝ている間にメモも残さず家を出た。帰りのタクシーをさがしていると、伊倉(吹越満)とバッタリでくわした。こちらも久しぶりにさくら(片瀬那奈)と過ごしたばかり。もっともさくらが結婚を望んでいることを知り、そろそろ潮時を意識しだした。「あんまり女をみくびっていると、そのうち痛い目にあうわよ」。洋子は言い捨てると、タクシーで走りさった。 「こっちは人手がほしい。そっちは仕事もないし金もなくて困ってんだろ」。あたるは天羽の店でバイトすることにしたが、しばらく内緒にしておくことにした。というのも天羽の店に泊まったことをさくらに知られてしまったからだ。そのさくらは伊倉とヨリを戻してゴキゲンだ。さっそくカヲルの家に駆け込んで報告をした。「兄弟そろって何やってんだか」。カヲルは冗談めかしたが、ショックを受けていた。  そしてカヲルにはもう一つ気がかりなことがあった。洋子から無視されるようになったのだ。「今度はいつ会えますか?」「ここは会社よ。あなたも社会人ならわきまえて」。洋子の突然の心変わりがカヲルには理解できない。 「何もたもたしてんだ」天羽に言われて、あたるはリサイクル品を軽トラに積みこんでいた。ふと前を横切った男をなにげなく見たあたるの動きが止まった。「健ちゃん・・・?!」。クリスマスに逃げてしまった砂山健(海東健)だった。あたるは追いかけたが、姿を見失った。「今さらどうするんだ」。という天羽の言葉に、あたるは言い返した。「逃げた理由が知りたいだけよ」。店に戻って回収品のホコリをはらっていると、広瀬菜々(有坂来瞳)がいつの間にか店にいた。あたるが辞めさせられた会社の後輩だ。「先輩と比べたら、私なんかよっぽどマシですよね」。菜々も男にふられたばかりだが、あたるの姿を見て慰められたらしい。「また来ます」。あたるはうんざりした口調でこたえた。「もう来なくていいよ」。

 さくらが公園にいると、伊倉がイベントコンパニオンをしている松尾淳子(山本恵美)という若い女を連れていた。「こんなやんちゃな人で、大変だったわね」「そちらもお気をつけて。この人、懲りない人ですから」。伊倉をはさんで女2人、静かに火花をちらした。「あいつ、わざと新しい女を見せつけたんだよ」。うっ憤をぶちまけるさくらを無視して、カヲルはぽつりとつぶやいた。「あたる、この頃帰りが遅いなあ」。天羽の店でバイトしているとは知らない。「ねっ、ちょっと抱きしめてくれる。この前あたるにやってたみたいに」。しかたなく、「はいはいはい。やらせていただきます」。カヲルがさくらを抱いていると、ヘトヘトに疲れたあたるが帰ってきた。 「あー、ハグハグしてる。しかも前から」。さくらは憎まれ口を叩いた。「あたるは男運悪いんだから、厄落としもかねてリサイクルショップのあいつにでもハグハグしてもらったら」。頭にきたあたるは自分の家に戻った。健とのツーショット写真を見ていたら切なくなってきた。「なんでコソコソ逃げちゃったのよ」。未練をたち切るために写真をガス台にかざした。が、点火しない。「止められたんだ。ガス代払ってないもんなあ」。あたるはさらに情けなくなった。

 カヲルは会社の屋上で洋子が1人きりでいるのを見つけた。「どうしてですか?」。カヲルには洋子から避けられる理由が分からない。「しばらく会うのはやめましょ」「やっぱり遊びだったんだ」。洋子がパソコンにシングルマザーの出産スケジュールを組んでいることなど、カヲルは知るはずもない。「こっちから連絡するわ」。ぼう然と立ちつくすカヲルを残して、洋子は行ってしまった。 「ちょっと抱きしめてくれる?」。リサイクルショップで掃除していたあたるは、ふと手を止めると天羽に頼んでみた。「フツーそういうこと、言うかあ」。それでも天羽はあたるを抱きしめてくれた。「なんか心が入ってない感じがする」「注文が多いなあ」。あたるの方からギュッと抱きしめた。不覚にも天羽は意識してしまった。 そしてあたるも。「全然ときめかない」「言ってくれるよな」。2人とも冗談でごまかした。初めて顔を見合わせて笑った。そこへカヲルがぶ然として店に入ってきた。「こんなとこで何やってんだ!」。あたるはあわてて天羽の腕をふりほどいた。「違うの、バイトしてるのここで」。怒って出ていったカヲルをあたるが追いかけた。「なんで言わなかったんだ」。「あいつのことが好きなのか」「そんなんじゃないよ」。あたるが切り返した。「洋子とまたうまくいってないんだ」。痛いところをつかれたカヲルは仏頂面ではき捨てた。「お前があいつに決めたんなら勝手やれば」「勝手にするわよっ」。2人は顔をそむけて別れた。

 あたるが店に戻ると、天羽があたるのケータイで話している。「今さら話すことなんかないだろう」。健からだ。あたるはあわててケータイをもぎ取ったが、すでに切れていた。かけなおしたが、つながらない。「そんなにあいつのことが忘れられない のか」。あたるは涙ながらに訴えた。「自分でもどうしようもないのっ」。そこへ洋子がふらりと現れた。「とんでもない時におじゃましたみたいね」。あたるは恥ずかしくて店を飛びだしていった。「あなたも自分をあらわすのが下手な人ね」。洋子の言葉に天羽は一言も言い返せなかった──。 あたるがカヲルの家に戻ると、さくらがこたつ虫をしていた。お風呂を空焚きしていることも気付かずに・・・。仕方なく銭湯に行くことになった3人。空焚き騒ぎの間に、あたるとカヲルもなんとなく仲直りをしていた。銭湯に着くと、笑いながらやってきた天羽と洋子に出くわした。あたるとカヲルは「・・・・・・・・・」複雑な感じ。その上、男湯には伊倉までがつかっていて、女湯との間でなにやら、複雑な関係が・・・。 銭湯の前で、風呂上りの全員が集合、伊倉が「どうせだからこのままみんなで飲もっか。」と盛り上げていたところに、風呂セットを手した健が、やってきた。

<第5回> 「ついていい嘘」
 「自分のやったこと分かってんのかっ!」。カヲル(押尾学)は銭湯の前で出くわした健(海東健)を思わず殴った。「やめて」。健をかばったのは西村典子(林知花)。体は細く弱々しげだが、心は強そうだ。「やっぱ原因は女だったんだア」。さくら(片瀬那奈)がつぶやいた。ショックで固まっているあたる(菅野美穂)を救ったのは天羽(田辺誠一)の一言だった。「俺たちつきあい始めたんだよ。行くぞ」。あたるは後ろ髪ひかれる思いで天羽について行った。「なんであんな嘘言うのよ」。2人きりになると、あたるは天羽にくってかかった。「お前を捨てた原因も分かったんだ。今更傷つけあったって仕方ないだろう」。天羽はあの時あたるが否定しなかった心理を読んでいた。「あっちには女がいた。こっちには何もない。傷つくことを本能で避けたんだよ」「そんなことないもんっ」。強がってみせたあたるだったが、自分の心まで偽ることはできなかった。

 帰宅したあたるの顔を見て、カヲルは内心ホッとした。「あの後、あいつとはどうしたんだ?」「ラーメン食べただけ」。あたるは洋子のことを聞き返した。「やっぱなんか避けられている感じがするんだよなぁ」。つらいこともみっともないこともカヲルとは何でも話し合える。あたるはささやかな幸せをかみしめた。とはいえ健のことをすっぱりと忘れられたわけではなかった。「なんか風邪っぽいんだよね」。あたるは天羽にバレバレの嘘をついてバイトを早引けすると、健と出会った銭湯の前ではりこんだ。やがて健が典子と現れた。「私、先に入ってるから」。典子が銭湯に消えると、あたると健は近くの公園へ向かった。すでに健は典子と一緒に暮らしているという。「少し貸してもらえっかな」。健はクリスマスに黙って部屋を出ていったことを詫びるどころか、金の無心をしてきた。あたるは持っていた有り金、1万円あまりを手渡した。「返さなくていいよ」。健はあたるの部屋の合鍵を差しだした。「じゃあな」。

 去っていく健。あたるの目からは必死にこらえていた涙があふれてきた。「おい、こたつ虫」。あたるがふり返ると、天羽が缶コーヒーを投げてきた。健との一部始終を見られたらしい。「ほんとに風邪ひかれちゃ困るからな」。缶コーヒーはもうぬるくなっていた。それでも今のあたるには十分暖かかった。 「健ちゃんとチャンと別れてきた」。あたるはカヲルに報告した。「俺がお前のおとこ運、下げてんのかなあ」。カヲルは天羽から言われた一言が気になっていた。  「世間は休日なのになあ」。あたるが天羽の店でリサイクル品の手入れをしていると、洋子がやって来た。「おいしいコーヒーでも飲ませてもらおうかな」。天羽がコーヒーのしたくをしていると、さくらも顔をのぞかせた。伊倉(吹越満)は家庭サービスで会えないらしい。「最近ひからびてきたのよね。あいつも吸血鬼にやられたのかなあ」。あたるの予感どおり、さくらは洋子にからみはじめた。もちろん吸血鬼とは洋子へのあてつけだ。洋子は笑みを浮かべた。「伊倉さん、離婚してるわよ」。子供だっていないという。「ウソよ」。洋子は伊倉が1人暮らししているマンションを教えた。さくらは店を飛びだした。「戻ってくるから」。あたるが追いかけた。店内には天羽と洋子が残された。「人とあんまり、関わりあいたくなかったはずだろ」「それはお互いさまあなたもあたるさんに関わってるでしょ」。2人ともあたるたちに振り回されることを楽しんでいた。 「言ってなかったっけ?」。伊倉はいつものように落ちついていた。昨年末、女房に男ができて離婚したという。「さくらを騙して、ズルズル引っ張ってきたんじゃないっ」。あたるは伊倉にかみついた。すると伊倉は、「真実を伝えるだけが愛情じゃないだろ。それに君だって、天羽さんとつきあってるって嘘ついたじゃないか。でもそれでいいんだよ。現に誰も傷ついてないだろー」と笑った。さくらは伊倉に平手打ちをし、「しばらく会わない。反省してろ」と部屋を出た。伊倉は頬をさすりながらも、他の女からの誘いの電話にニヤついている。どこまでも懲りない奴だ。

 さくらと別れて、あたるが店に戻ってみると、菜々(有坂来瞳)が待っていた。「元カレに私、嘘ついちゃったんですよね」。なにやらわが身につまされる打ち明け話をはじめた。菜々も、新しい恋人ができたと嘘をついたらしい。「そんなの優しさじゃない!自分が傷つくのが嫌だから逃げてるだけじゃない!」。あたるは思わず叫んでいた。「今日はもう帰っていいぞ。そんなんじゃ仕事にならないだろ」。天羽はあたるの胸の内を見すかしていた。 「なにやってんだろ、あたし」。あたるは自己嫌悪に陥っていた。部屋でいつものようにこたつ虫を決めこんでいると、ドアがノックされた。「店に置いてても売れないからな」。天羽があたるの部屋にあった電気ストーブを返しに来た。「あの、すみません」。2人が振りむくと、典子が立っていた。帰ろうとした天羽の腕をあたるが握りしめた。「いてよ。嘘でも恋人でしょう」。「これ、お返しします」。典子はあたるが健に渡したお金を差しだした。「健ちゃん、本当はあなたに謝ろうとしていたんだと思う」。ところが天羽を新しい恋人だと信じて、お金の話をきりだしたらしい。あたると出会う前に、健は典子と2年間つきあっていた。「私が健ちゃん忘れられなくて、それで電話して・・・」典子は続けた「私、妊娠しているの。健ちゃんの子供よ」。あたるはショックで言葉を失った。典子が帰っても、固まったままのあたる。「傷ついてないフリして、忘れたフリしてやりすごすなんてこと、お前にはできないんじゃなかったっけ」という天羽の言葉に、たち上がり、健のアパートへ。「あたし・・・あの人とはつきあってないわ。嘘よ」戸惑う健と典子。あたるは健宛ての郵便物を典子に差し出して「健ちゃんはあなたにあげる」と言い残し、リサイクルショップへ戻った。じっと傷ついたことに堪えていたあたる、天羽のあたたかい言葉に堪えていた涙が零れ、子供のようにしゃくりだした。「泣くなら胸だろ」という天羽の胸でエンエン泣くあたる。だいぶ落ち着いたころ、あたるにも異変が起きた。吐き気を覚えトイレに駆け込んだ。もしかして、あたるも・・・・・。

<第6回> 「シングルマザー!?」
 「ドキドキするんだもーん」「こっちだって」。カヲル(押尾学)を間にはさんで、あたる(菅野美穂)とさくら(片瀬那奈)は不安そうだった。手にしているのは妊娠検査薬。とりあえず反応はシロとでたが、説明書は再検査をすすめている。2人はもうなかば妊娠を宣告された気分。そして洋子(山本未来)が同じ薬を持っているのを知ったカヲルも落ちつかない。「マジでやばいんじゃないの」「それはお前らだって同じだろ」。3人そろってため息をもらした。  早速さくらは伊倉(吹越満)に打ちあけた。離婚した伊倉には支障ないはずだ。ところが返事は「お前もまだ若いしな。いろいろやりたいことがあるだろ」。暗に出産を拒まれた。「地獄に落ちろ!」。さくらはできたての手料理をゴミ入れに捨てると、伊倉のマンションを飛びでた。

 「もし子供ができたなら責任とるから。俺と結婚してもらえませんか」。深夜のオフィスでカヲルは洋子にきりだした。「あなたはいらないの。子供がほしかったのよ」。洋子はパソコンの画面をカヲルに向けた。そこにはシングルマザーの父親候補としてのカヲルのデータがインプットされていた。カヲルは何も言えなかった。 「カヲルのこと、たね馬として見てたってこと!」。あたるとさくらもさすがにビックリ。「お前らのほうはどうなんだ」。あたるは病院に行ったが、結果がでるのは1週間後。「子供には罪はないしさ」。中絶には戸惑いがある。さくらも妊娠しているのかハッキリしない。たしかなのは伊倉が出産を望んでいないことだけ。「勝手に生んじゃったほうが良かったかな」。3人とも冗談めかしても表情はさえない。

 その頃、他の3人もリサイクルショップで顔をつきあわせていた。天羽(田辺誠一)と伊倉、洋子だ。「カヲルくん、ショックでしばらく立ち直れないよ」「打ちあけたのはそれだけ彼にホレたってことかな」。男2人は洋子の決意に舌をまいた。「きっとできているわ。分かるの」。妊娠を確信して洋子は笑みをもらした。

 病院帰りのあたるはカフェで典子(林知花)を見かけた。妊娠しているのに薬をのんでいた。「あなたまさか!」。典子は逃げるように姿を消した。「妊娠は嘘かもしれない」。あたるは健(海東健)に確認してくれるよう、カヲルに頼んだ。店に戻ると、洋子と菜々(有坂来瞳)が談笑していた。シングルマザーの話題でもりあがっていたらしい。「洋子さんって美人だし部長だし憧れるわ」。菜々が帰ってしまうと、あたるは洋子に問いただした。「カヲルは父親になるって言ってるんだよ」「努力しても男は裏切るわ。でも子供は裏切らない」。洋子の口調に迷いはなかった。「女ってシビアだね」。ふり返ると買い物から戻ってきた天羽が立っていた。「声ぐらいかけてよね」。文句を言ったとたん、あたるは吐き気をおぼえてトイレにかけこんだ。「あの子まさか」「まだ判定待ちみたいだけどな」。もしあたるが健の子供を身ごもっていたら。「それはあいつが決めることだよ。君が勝手に生むって決めたみたいにさ」。洋子が帰ると、ようやくあたるがトイレから出てきた。涙を浮かべながらも笑っている。「あ、きたんだ」「だってホッとしたんだもん」。天羽はあたるの背中をあやすように優しく叩いた。「ほんと、どうしようもないなあ」。そう言いつつも天羽の胸にいとおしさがこみ上げてきた。

 カヲルは夜の公園に呼びだした健につめよっていた。「妊娠が嘘だって、もう知っているんだろ」。健は重い口を開いた。「典子は病気なんだ」。その治療費にあてるために、あたるのこたつまで売り払ったのだ。「あいつには俺しかいないんだ」「だからって1年もつきあって、あんな別れ方はないだろ」。すると健は意外なことを告白した。「お前たちが前につきあっていたことがいつも頭のどこかにひっかかっていたんだ。だから俺は典子を選んだんだ」。健をにらんでいたカヲルはもう何も言わずに立ち去った。

 同じ頃、店に典子が姿をあらわして、あたると向きあっていた。「私、身寄りもないし不安で心細くて、それで健ちゃんに頼ってしまったの」。健は治療費をかせぐために昼夜をとわず工事現場で働いている。「あなたを選んだことに変わりないわ。健ちゃんがキチンと言ってくれなかったことが悲しいよ」。あたるは精一杯の笑みをうかべた。「嘘ついてごめんなさい」。2人のやりとりを聞いていた天羽が口をはさんだ。「病気って何なんだ?」「子宮ガンだって」。手術は3日後、卵巣を摘出してしまう。「ほんとに子供ほしかったんだけどなあ」。典子は遠くを見つめるようにつぶやいた。あたるは深夜の交通整理のバイトを始めた。誰にも言わずに内緒のつもりだったが、昼間つい居眠りしたので天羽にバレてしまった。「手術費用だろ。でも彼女は喜ばないぞ」「あたし自身のためだよ」。健に対する気持ちを完全にふっきるためなのだ。「ぶきっちょなヤツだよなあ」「部屋でこたつ虫やってるよりマシでしょ」。あたるの気持ちは天羽にはよくわかった。

 手術当日、あたるが手にしたバイト代は4万5千円。「足りないよな」。あたるがため息をもらしたら、天羽が目の前に10万円置いてくれた。「お前のノートパソコン、買い取りだ」。やがて健が店にやって来た。天羽が呼んでくれたらしい。「手術費用の足しにして」。あたるはお金を健に差しだした。「同情なんかじゃない。あたしが健ちゃんをふるの。その手切れ金よ」。ためらう健に天羽が声をかけた。「そいつの意地も少しはたててやんなよ」。健は金を受け取った。「ありがと、助かるよ。ほんとごめん・・・典子を・・・ほっとけなかったんだ」。健は深く頭をさげた。たまらずあたるはつぶやいた。「健ちゃんはやっぱりあたしが好きになった健ちゃんだよ。でも、これでバイバイだけどね」。あたると健は精一杯の笑顔でうなずきあった。

 一方、カヲルは洋子にシングルマザーの決意を問いただしていた。「本当に俺はいらないの?強がっているだけだろ」。しかし洋子はきっぱりと断言した。「いらないわ。うぬぼれないで。」。カヲルはぼう然と立ちつくした。

 運河沿いの橋に並んで座りながらカヲルはあたるに、「俺、メチャクチャかっこ悪いよなあ。一回寝ただけで分ったような気になって。うぬぼれんなって言われちゃったよ」と話した。「洋子虫もほんとは不安だと思うよ。今はきっとつっぱってるだけだよ。その内カヲルの気持ち分ってくれるよ。きっとうまくいくよ」「かっこ悪くたってカヲルはカヲルだよ・・・」と言うあたる。そんなあたるにカヲルはキスを──。


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