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美術セットのお話

『突然ですが、明日結婚します』では、あすか(西内まりや)の実家・高梨家、あすかや莉央(中村アン)、桃子(岸井ゆきの)らが働くいずみ銀行、小野(森田甘路)のマンション、カナママ(椿鬼奴)のお店『Luz』などがスタジオセットで撮影されています。これらのデザインを手がけた美術デザイナーの武田麻衣子さんに、美術セットに関する裏話をうかがいました。

※セットの写真はクリックで拡大します

美術デザインのお仕事は、どういった流れで作業を進めていくのでしょうか。

台本に書かれているヒントを踏まえて、監督と一緒にロケハンに行きます。そのロケハンを経て、自分の中で「この役はきっとこういう性格なんじゃないか」「こういう趣味があるんじゃないか」というある程度の裏設定なども考えながら平面図を描いていきます。その平面図に、台本に書いてあるお芝居以上のこと…それこそ、「最終回でこういう結末になるかもしれないから、こういう風にセットも作っておいた方がいいんじゃないか」というようなことも考えながら仕上げていくんです。それと同時に、見た目のテイスト…壁の色とか置いてあるイスといった小道具も含めた全体的なテイストをパース画にして、それを監督にプレゼンするんです。実際に撮影するにあたって、カメラさんや照明さんとも相談して、「この顔を撮るときにこの壁は取れるようになっていた方がいい」といったことも話し合いながら設計していきます。そこまで番組の制作の人たちと向き合った後に、今度は設計図を描いていって、美術側の人たち…大道具さん、床を敷くアクリル装飾さんたちに発注していきます。発注する中で、壁紙を指定していったりしながら、今度はサラの状態のスタジオからパネルを建ててセットを建てていくんですけど、その時に、最終的に生活感を出すような「汚し」を入れたりして…。例えば『Luz』ですと、「きっと煙草を吸うママなんじゃないか」と考えてヤニ汚しをしようとか、そういう画面の中に入るすべての背景は全部コントロールしていきます。役者さんが入ったときにどう見えるか、というところまでをチェックして、デザインの仕事は完結するんです。

実際にどれくらいの期間が必要になってきますか?

セットの大きさにもよりますが、今回のドラマはセットが6パイあって、発注してから立てるまでに大体1ヵ月くらいでした。1週間にセットを2ハイずつ発注していったんですね。1週間目に発注した2ハイのセットは、1週間後から10日後には建っている状態でした。今回は、割と時間が短い中でやってきましたね。

作品を通して何かコンセプトはありますか?

監督と話していたのは、少女漫画が原作で、働いているOLさんとか主婦の方々…少女漫画を昔から読んでいたであろう方たちが1週間の始めに見るときに元気になれるような明るい画面がいい、ということでした。セットの個性は全然違いますけど、全体的に画面の中で明るく見えて、デザイン的には特に小野(森田甘路)のマンションが一番分かり易いんですけど「住んでみたいな」とか、あるいは「カナママのお店に行ってみたいな」とか、少し憧れてもらえるような空間を目指しました。

一番苦労されたのは?

一番大変だったのは…私、ペントハウスって入ったことがなかったんです。大体、高層マンションのペントハウスって最初に売れてしまうのでロケハンもあまり出来ないんですよね。なので、ある意味仮想空間というか、いろいろな資料を見ながら、自分の憧れを込めた感じが強いです。見たことない空間、でもみんながなんとなくイメージする空間をオリジナルで作ったのは、大変というよりやりがいがあって面白かったです。

小野のマンションで一番気に入っている場所は?

ナナリュー(山村隆太)のいるスペースですね。実際にはあそこって、リビングでもダイニングでもキッチンでもなく、でも個室でもないという、ドラマオリジナルの場所だと思うんです。台本の中に書いてあったんですけど、みんなが飲んでいるときにナナリューは実は寝ていて…。それは最初見せないんですけど、いるであろうと感じさせるというか。ナナリューの仕事上、帰ってきて部屋に戻る前に、どこかに居場所を作って寝てしまうだろう、ということで、昔のマンションなどには和室の小上がりみたいになっているスペースがありましたけど、あの雰囲気をおしゃれな空間で出せないかな、と思ったんです。ちょっと床をフカフカにして、布団は敷かないけど、ゴロゴロしてくつろげるスペース、ということであそこが出来上がりました。一応、狙いは、あそこで今後、あすかとナナリューがイチャイチャするんだろうな、イチャイチャしてほしいな、と。でも、囲われたスペースではなくて、キッチンからものぞけるし、階段の格子からも絵が狙えるんじゃないかと思いました。監督にはそこまで言わなかったんですけど、デザイナーとしては、あの狭い空間で、LOVEなところをいろいろ撮れるといいかな、というのが狙いでしたね。

演者さんから何か感想はありましたか?

小野役の森田さんは、「こんな家、使えきれねぇ」!みたいにおっしゃっていました(笑)。みなさんテンションが上がってはしゃいでくれたので嬉しかったですね。お芝居をする上で演者さんのテンションを上げる、というのも実は隠されたミッションなんだな、というのは毎回思っているので。

今回のセットで採用した、新しい手法はありますか?

高層マンションの一番上、というのが、実は窓の外って青空だったり、真っ暗だったりして、夜景も見えないというのが現実なんです。人って、東京タワーとかに登ったりしてもわかると思うんですけど、下を見るので目線高のことって覚えていないというか。CGのスタッフともそういう話になったんですけど、じゃあ高層マンションの窓の外をどうしようか、と考えたときに…あれは45階くらいの設定なんですけど…嘘でも夜景は見せたいよね、と。でも、あまり見せすぎるのものダメなので、本当に外が見えるときはCGを使って、ちょっと低めのところに夜景を作ってもらっているんですけど、お芝居するときのアップの後ろは、そこまで細かくしなくてもいいけど明かりは感じたい、ということで、高層ビルの上についている赤灯(航空障害灯)だけ感じてもらおうと、黒いパネルに赤いランプを付けて、ブラインド越しに赤灯だけがちょっと見える、という工夫をしました。昔はあんなに高いマンションもなかったので、写真のパネルとか幕とかを使っていたんですけど、今回は黒い幕に電飾だけ、という風にしたのは、チャレンジした部分だと思います。

監督とのやり取りの中で、一番議論になったのは?

監督のニュアンスをつかみ取るのが非常に難しかったのは、あすかの実家ですね。実家というと、何となく和室があって、建具も古かったりして…。こたつがある、となると、いわゆる『サザエさん』のお家のようなものを想像できたりもするんですけど、その辺をとにかく明るくしたい、おしゃれにしたい、と。そのキーワードだけが最初に提示されて、「じゃあ、リフォームしたという設定にするのはどうでしょう?」と提案しました。リフォームした感を出すときに、柱を残したり、もともと欄間が差し込んであったであろう穴を作ったり、子どもがずっと育ってきたことを表現するための柱の傷だったり、というのをちゃんと説明したら、あれが新築のお家だとは多分見えないだろうな、と。なので、壁紙も白いんですけど、実は年代が違う壁紙を選んだりして、その微妙なさじ加減を伝えたときに、ハマるかどうかというのは心配していた部分でもあったんですけど、セットを見に来てもらったときに、温かい空間に感じるからいいんじゃないか、と。なんとなく懐かしい感じがする、という風にいろいろな人が言ってくれたので、成功したのかな、と思いました。

武田さんはこのドラマがデビュー作なんですね。

はい。私は、バラエティーのセットをずっとやっていたんです。ドラマにはアシスタントとして携わってきたので、この番組が頭でやる最初のドラマになって…。自分のテイストを出そうと思ってやっているわけではないですけど、多分、色の選び方とか、セットの寸法とかで今までのデザイナーさんとは違う個性が出ているかもしれないですね。

今までアシスタントして担当されたドラマというと?

『大使閣下の料理人』のオープンセットとか。いま11年目なんですけど、アシスタント歴は長くて10年くらいやっていたと思います。月9は『リッチマン、プアウーマン』などをやっていました。

このお仕事のために、普段の生活で心がけていることはありますか?例えば、行ったお店の写真を撮っておくとか…。

私はもともとテレビっ子だったんです。両親もテレビが好きで、父はバラエティー、母はドラマをずっと見ていたような感じだったんです。私も、ドラマをずっと見ているのが当たり前の日常だったので、いまでも普通にいろいろなドラマを見ているんです。そういうときに、職業的に見るというのもあるんですけど、それよりも一般視聴者的な感想を持ってしまっていて。アイドルとかも好きで、ミーハーなんです。そのミーハー心的なもの、一般の人の意見というのは、いつも持っていたいと思っています。ミーハーで言うと、世の中で流行っているものも凄く好きなんです。なので、意識しなくても好きなので、そういうところに行ったり見たりするんです。ミーハーでいる、というのは、結構大事にしていますね。

画面に集中して見ていないとわからないような細かい工夫があれば教えてください。

バル『Luz』のところで、裏設定で色々な国の男性と付き合っていたことがるママ、という感じで、色々な国の置物が置いてあります。実はランチメニューも毎回変わっていて、そのテーマの国の旗が立っているとか…。ランチメニューは装飾さんもこだわっていて、今回のドラマの遊びどころになっていると思います。

いかがでしょうか?ドラマのセットは、本当に細かいところまで考えて作られていますので、録画されている方は、是非細部までチェックして見てくださいね。

また、ドラマやバラエティーのセットに興味がある方は、2月24日(金)~4月9日(日)まで、横浜情報文化センター(神奈川県横浜市中区日本大通11)内の放送ライブラリーにて開催されている『セットデザインのヒミツ展』(午前10:00~午後5:00※月曜日休館 月曜が祝日の場合は翌日休み)にも足をお運びください。こちらでは『突然ですが、明日結婚します』のデザイン画や図面のほか、『カインとアベル』『Chef~三ツ星の給食~』の実物セットなども展示されています。入場無料で写真撮影もお楽しみいただけます。

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