『早期教育って言葉に心が揺れるなあ〜。』
2005年6月7日
先日フジテレビ社内で、明治大学教授の斉藤孝さんを講師にお招きして、勉強会が開かれました。
「人は子どもを持つと急に熱心な教育者になる。皆さんも今すぐ子どもを作って、子どもたちの教育に良い番組を沢山作ってください。」という話から展開し、「教育に対する需要は大きい」こと。
「言葉の含有率の高い知識人にもっとテレビに出演してもらい、そういう頭のいい人をスターとして誕生させる番組を作るべきだ。頭がいいって、かっこいい!と言い出す子どもたちが増えるようにするべきです。」というような内容の講演を一時間あまりにわたってなさった中に、こんな発言もありました。
![]() 母校を訪ねました |
これには驚きました。だって、一般的にはテレビが子どもに与える影響って ネガティブにとらえられていることが多いですよね。
電磁波が子どもの身体に悪影響を与えている・・・や、テレビばかり見ている子は集中力がない、ですとか。
最近読んだ『私はリトルアインシュタインをこう育てた』という本の中でも母親は、この天才少年がまだ小さかった頃、一切テレビを見せなかったとか。
はて、はて、いったい子どもにはどのような教育環境をあたえてあげるのがいいのでしょうか。最近巷ではやっている早期教育ってどのようなものがあって、いったい何が魅力なのでしょう。何故、こんなにまで巨大なマーケットに膨れ上がっているのでしょうか?
![]() 昔とかわらない1号館 |
「お子さんの脳には出来るだけ早い時期から刺激を与えてあげましょう。」
「天才作りは、0歳から!!」
「脳のシナプス数はどんどん減ってくる。だから、今!」
なんて、母親をドキッとさせるコピーがずらりと並んでいます。
そして更に母親たちを焦らせるのは、時々テレビに登場してスタジオのゲストを「え〜〜〜!!すご〜〜い!!」と驚かせている子供たち。
たった3歳で、歴史上の人物の顔を見て、「おじゃのぶながあ(織田信長)」「たけだしんじぇん(武田信玄)」なんてすらすらと言い当てて見たり、4桁の数字の計算をすらすらとやってのけたり・・・
そんなある日、ふと本屋に立ち寄ると目に飛び込んできたのは『幼稚園では遅すぎる』というタイトルの本。
![]() 早く大学生になりた〜い!? |
「綺麗に片付いた真っ白い部屋は子供にとって刺激がなさすぎて有害。」
などと言う記述に、急いでおもちゃ箱をひっくり返して部屋をぐちゃぐちゃにして子供がいつでもおもちゃに触れられるようにしてみたり、「子供にとって最も退屈なのは童謡!好きなのはクラシック。」なんて文章が目に入ると 急いでステレオの中に入れておいた童謡のCDをクラシックに入れ替えてみたり・・・。
私って、単純!
こうなったら色々と調べてみよう。
産経新聞で連載していた、七田式右脳の刺激って、どんなもの?
ベネッセコーポレーションのしまじろうは、何故あんなに人気なの?
ディズニーの英語シリーズを聞かせていると、本当に英語が上手に話せるようになるの?
ベビー・アインシュタインは、後輩だった木佐彩子アナウンサー夫妻がイメージキャラクターだけど、どんなものなの?
色々と資料を取り寄せたり、体験レッスンに行ってみたり、ビデオを買ってみたり・・・。
あ、そういえば、子どもの誕生のお祝いで頂いたプレゼントの中にもそんなビデオがあったなあ・・・。
ところが、見たり聞いたりしているうちに????という気持ちに・・・。
昔の人って、こんなの使わなかったはず。
それでも、我が日本は、数々の偉人を輩出してきているではないですか!
福沢諭吉しかり、野口英世しかり、夏目漱石しかり。
そして、湯川秀樹をはじめとして、ノーベル賞受賞者も12人と少なくはないですよね。
早期教育って、いったい何?
早期教育って、本当に子供にとって必要なものなのでしょうか?
次にやったこと。それは別の視点から考えた著書を読んでみること。
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本当は、このような本を含め、さまざまな観点から書かれた著書を、皆さんご自身が読んで考えていただくことですが、育児に忙しいお母様方のために、簡単に、引用を加えてご紹介します。
(以下の引用は、分かりやすくするため『子供の脳の発達 臨界期・敏感期』に限ります。引用部分は【 】で示しています。)
早期教育について論じている人達が、共通して挙げている研究というのがいくつかあります。
まず、グリーノウの研究。
【グリーノウは、乳離れしたばかりの子ラットを三つの異なった環境で育てた。ひとつは「隔絶された環境」と呼ばれるもので、小さなかごに一匹だけを入れて飼育した。二つ目は「社会的環境」と呼ばれるもので、やや大き目のかごに数匹の子ラットを入れて飼育した。そして三つ目が「複雑な環境」と呼ばれるもので、第二の社会的な環境よりもかごは大きく、障害物やおもちゃなど子ラットが興味を引きそうなものがかごの中に入れられていた。(中略)その結果、複雑な環境に育ったラットの神経細胞の樹状突起は、隔絶された環境や社会的な環境で育った子ラットに比べて20%も多く枝分かれしていたのである。(中略)つまり頭が良かったのだ。】と。
この研究を根拠にして、だから子どもには、小さいうちから刺激を沢山与えてあげて、頭のいい子を育てましょうと、早期教育を促す教材も多いのですが、これに対し、
【しかし、この実験結果を捕らえて、「だから幼少時期の環境刺激は重要だ」という結論を出すのには落とし穴がある】というのです。
どんな落とし穴かというと、それは、ラットにありました。
【実験に用いたラットの日齢(生まれてからの日数)は20日であった。そして、異なった環境で30日間育て、日齢50日で脳の解剖を行った。実はグリーノウが実験に使用したラットは日齢45日で生殖可能になる種類であった。つまり実験が終了した日齢50日は、生殖可能日齢を超えていた】というのです。
人間に当てはめるならば、少年期から、思春期あるいは成人期を対象にした実験になるので、この実験から【幼少時期の環境が脳の発達に影響を与えるとはいえない。】というのである。
なるほど。大変興味深い!!!
更に、早期教育の教材の宣伝文句によく使われる「シナプスが多いうちに刺激を与えましょう。」というような考え方については、次のような記述があります。
ピーター・ハッテンロッカーという研究者が、なんと脳のシナプス数(シナプス:神経細胞と神経細胞との接合部の称)を電子顕微鏡で数えたのだそうです。
それによれば、
【乳児の脳でシナプスを数えたハッテンロッカーは、それがほぼ成人と同じ密度であることを突き止めた。そして驚くべきことに新生児期にすでに成人なみであったシナプス密度は、乳児期にどんどん増加し、8〜12ヶ月の間に成人の1.5倍くらいまで上昇し、人生で最大の密度になることを確認したのだ。】
とあります。
これが、『幼稚園では遅すぎる』などといった、早期教育の重要性を主張する根拠として使われることになったらしいのです。
しかし。
【シナプスが多いほうが脳は優秀という根拠はどこにもない】上、重要なのはここからです。
【ハッテンロッカーは、乳幼児期はシナプスが急激に増加し、樹状突起の密度も同様に急速に増加する時期である、その時期に何らかの障害が脳に加わることによって、原因不明のてんかんや精神遅滞が発症するのではないか、と考えた。】とあります。
それは、後のヘンシュ・貴雄という研究者の研究にもつながっていきます。
【ヘンシュ貴雄が着目したのは動物のシナプスには2通りあるという点だった。脳のシナプスの80%は興奮性シナプスと呼ばれ、受けての神経細胞に興奮を伝える働きをする。ところが、約20%のシナプスは抑制性シナプスと呼ばれ、それが接している神経細胞が興奮するのを抑える働きをしている。(中略)興奮性の刺激ばかりでは、決してよい脳の発達は起こらないことを実験によって実証したのです。実際、未熟な脳では、抑制性細胞群機能が低下しているため、過激な刺激を受けた興奮性細胞同士が過剰に働いて、発作気味となる恐れがある、と述べている。】というのです。
つまり【刺激をあたえれば良いなどという単純な考えでは過ちを犯してしまう可能性を示唆している】と。
まとめれば【早期教育などの過剰な刺激が、もともと刺激に敏感な乳幼児の脳のオーバーロードとなってしまい、脳の発達のプログラムが障害される可能性がある。】というのです。
では、本当に早期教育が子どもの成長の妨げになっているとしたら、何故淘汰されないのか?
先日お会いした、ある小児科の先生の言葉が興味深かったのでご紹介します。
「表現の自由があるから、早期教育ビジネスについては言いたい放題のところもあるけれど、医療の世界は少し違います。効果のない医療はすたれていく。
(早期教育も効果がなければすたれて行くはずだが)何故日本の早期教育がすたれていかないのか?
それは、子供には、自分に与えられた環境に柔軟に対応していく能力があるから。
たとえ害があったとしても害が害として表に現れないほど、子供はそれを吸収し、対応していく能力を持ち合わせているということ。もうひとつの理由は早期教育による効果の長期的追跡調査がないので、いいのか悪いのか、本当の結果を誰も知らない。」と。
![]() 世田谷の公園で |
「母親にくっついて離れない子どもに20分だけ!20分だけでいいのよ。ビデオを見ててもらえば、その間に夕食の準備が出来るんだもの。」
「“お教室”は楽しい、って子どもが言うので・・・」
「だって、子どもって面白いくらい新しい知識をバンバン吸収していくんですもの!」
「キャラクターのビデオを一緒に見ながら、“シュカシュカシュッシュ!!シュカシュカ!!”なんて歯磨きをするのが、いけないの?」
「娘のほうが英語の発音が良くなったのよ。私の勉強にもなるわ・・・」って、そんなママ達の声が聞こえてきそうです。
![]() ボール遊び大〜好き! |
ビデオも教材も使い方次第ということもあるでしょう。
過度の早期教育に懸念を示している専門家の皆さんたちが心配なさっているのは、乳幼児に休まずに刺激を与え続けるのが良いとするある一部の考え方に対するもののようです。
その考えに従って親が子を厳しく訓練することが習慣になって、子どもに過度の期待を持ち、同時に子は、過度のストレスを感じるようになってしまっては、子どもは後に情緒障害を起こすこともあるそうなんです。
最近では、教育熱心で知られるあの韓国でも、「早期教育の弊害」という報告書がまとめられており、日本で有名な、ある“お教室”の韓国進出が実現しなかったそうです。
日本と同じく未就学児を対象にした教育マーケットが巨大に膨れ上がっているというアメリカでも、早期教育がもたらす弊害に懸念を示している小児科医が書いた『アインシュタインはフラッシュカードを使わなかった』という本がかなり話題になっているそうです。
未就学児に対する教育というのは、ほとんどの場合、親が子供に一方的に与えるものである場合が多いですよね。
だからこそ、親は子供のためにどんな環境を与えてあげるべきか、迷います。
でも「迷う」余裕があることが、現代の親の悩みなのかもしれません。
私が子供だった頃の親の世代は、生きてゆくことに必死だったと思います。
日本の経済成長を担う父親たちを支える母親たちは、家事・育児に全身全霊を懸けて、身を粉にして働いていました。
子供の数も多く、子は親の手伝いをして親を助けるのが当たり前でした。
我が家でも、一日のうちで、ゆっくり母が椅子に腰掛けて休憩をしている姿など、一瞬たりとも私は見た事がありません。
目が覚めればすでに母は働いていました。
家族の朝食、お弁当作り、掃除、洗濯、昼食、夕食作り。
4人姉妹おそろいの洋服もよく作ってもらいました。
![]() ひとりでブランコにのれるようになりました |
私たち姉妹は学校から帰るとすぐにランドセルを勝手口に投げ捨てるようにして、お店に立ちました。お客さんを迎えるためです。
各家庭への酒の請求書も私が書き、集金へも自転車で向かいました。
お金を稼ぐこととはどういうことかを学びました。
小売価格から、卸価格を引いて、“儲け”がいくらかを細かく調べ、こんなに重いお酒を、こんなに辛い思いをして運んでも、儲けが決して多くないことを悟ったものです。
そんな生活の中で、親は子供にどんなお勉強をさせてあげようかなんて考える余裕がなくて当然です。
子は親のそんな姿を見ながら「まじめに働くこと」「強く生きること」の意味を学びました。今になって思えば、とても重要な勉強だった気がしています。
![]() 子供には外遊びがいちばん! |
読み聞かせをしてもらった思い出の絵本なんてものが一冊もないのです。
だから・・・というわけではないけれど、私が唯一子供にしていることは、絵本の読み聞かせと、
出来るだけ多くの時間を子供と触れ合うこと、抱きしめること、
目の高さを同じにして話をすること、一緒に歌を唄うこと。
そして私の親が教えてくれた大切なことを、少しでも多く子に伝えること。
そんなことくらいです。
いろいろ難しいことをしてあげなくとも、これで充分な気がしています。
もちろん、私の両親が私にしてくれたことには到底適いませんが・・・。
長くなりましたが、最後に、最近注目度の高い茂木健一郎さんの著書『脳の創造性 「この私というクオリアへ」』の中から、次の文章を紹介して終わります。
【早期教育の是非については様々な議論がある。有益だという説もあれば、害の方が多いという論者もいる。モーツアルトは早期教育が確かに有効な場合もあるという事例であるが、世間で取り沙汰されている早期教育と、モーツアルトが受けたそれの間にはずいぶんと差がある。すなわち、モーツアルトの場合は徹頭徹尾「現場」において鍛えられたという点である。
モーツアルトは、父レオポルトによって、幼少時から自分の将来の「職場」に投げ込まれた。当時の宮廷の音楽環境である。この点にこそ、現代日本で流行っているいわゆる「早期教育」との決定的な差がある。最終的に自分が活躍しなければならない「大人たちの現場」からは隔絶された環境で、トレーニングやドリルをやってもダメなのである。そのような人工的な設定には、最終的な創造の現場には満ち溢れている微妙な文脈のニュアンスが欠けているのである。】
な・る・ほ・ど。
脳は奥深い。
人間は奥深い。
だから、おもしろい。






