『白馬の猿』
2012年1月26日
今年は、新年早々珍しいものに出会った。
縁起がいいのか、悪いのか!
期待通りの晴天に恵まれて、
家族で八方尾根の頂上、兎平(うさぎだいら)までリフトで登ったあと、
あまりの美しさにカメラを取り出し、私たちは撮影を始めた。
相当標高が高いところにいる爽快感は、言葉にならない程だ。
私たちは気持ちよく滑り出した。
娘は、もう私よりスキーが上手くなってしまった。
娘と主人は上級者用のコブ山を降りるというので
私は、一人で林道を走ることになった。
「じゃあね、下で会おうね。無理しないで、気をつけて滑ってよ!
何かあったら、携帯ならしてね。」
といつものセリフを繰り返し、私は滑り始めた。
絶景を目に焼きつけて
美味しい空気を最大限に身体に吸い込んで
心を大きく開いて
気持ちよく林道を滑っていた。
林道は、急な斜面と出会う場面も多く
上から、ものすごい勢いで滑り降りてくるスノーボーダーと衝突してしまうケースも多い。
だから、私はリスクを回避するために
上から滑って来る人を目で確認しながら注意して滑っている。
その時だった。
ふと、視線を上にむけると、
身体の小さい物体が、スノーボードを自由自在に操りながら
物凄いスピードで降りてきている。
「え?何?あれ?? 人間?いや、毛が・・・?」
「子ども? いや、子どもにしては上手すぎる。」
「毛? え? サ・ル・・・・?」
私は何か間違ったものを見た気がした。
「猿? 嘘でしょ!?」
現実を見たのか、錯覚だったのか、
結論が出る前に、私のスキー板はずいぶん前進してしまっていた。
猿がスノーボードをやる??
しかも、人間のスキー場で・・・。
でも、猿がスノボをやってはいけない理由はないはず。
確かにお金を払ってリフトに乗ることは出来ないだろうが
リフトに乗らなくても、彼らは山の上にすぐに登ることが出来る。
白馬にスキーに来るようになってもう5年になるけど
スキー場で猿を見たことは、一度もない。
果たして、さっき、私は何を見たのか?
娘と主人との待ち合わせ場所までの林道は長い。
ずいぶん下まで降りたころ、林道の雪も少なくなってきた。
その時だ!
今度は、林道脇の崖の木に、猿の大群がいた!
猿の重みで、木がゆっさ、ゆっさと揺れていた。
あまりの大群に、恐怖さえ感じた。
親子の猿も沢山いる。
私はスキー板に急ブレーキをかけて、思わず立ち止まり、上を見上げた。
カメラを取り出し、撮影したかったが
ここでカメラを猿に向けたら、怪しいものと誤解し、猿は子を守るために
私に襲い掛かってくるかもしれない!
リスク回避の為に、見て見ぬふりをして、
私はスピードを上げて待ち合わせ場所まで滑り下りた。
娘と主人は、すでにそこにいた。
かなりのスピードで滑ってきたことが容易に想像できるほど高揚している二人に、
「ねえ?ねえ?途中で、スノボの猿に合わなかった?」
「え!!!!!?ママ、何言ってんの?」
「あの~~、林道と斜面が出会う場所で、猿がスノボで猛スピードで降りてきたの見たの!!」
私はちょっと興奮気味に話した。
「そう、ふ~~ん。良かったね。ママ。」
娘は、根っから、私を信じていない。
またまたいつもの冗談かと、はなっからバカにしている!
「じゃあ、今度は3人で一緒にその斜面に行こうよ!
猿がスノボをやってるから!」
3人でリフトにのって、上へあがった。
私はもしかしたら、猿はリフトにも乗っているかもしれないと思った。
ワクワクして、ドキドキしながら、リフトの上でキョロキョロ周りを見渡した。
猿らしきものは、いない。
上から3人で滑り始めた。
余りスキーがうまくない私は、デコボコの斜面を、
まさに必死の想いで、転がり落ちていた。
その時だった。
今度は、林道を、猿がスキーをはいて、左から右へと悠々と滑り抜けていった。
「ほら!ほら!見て!見て!猿~~~~!」
私は転がり落ちた身体を立て直して、急いで猿を追いかけた。
猿は、両足に木をくくりつけて、枝をストックにして
スキーをしていた。
嬉しかった!
猿に追いついた。
猿の横で、スキーが出来た!
白馬の山で、猿と一緒にスキーが出来る喜びを最大限にかみしめた。
「今年はいいことがある!!」
そう確信した初すべりだった。
これは、軽いフィクションです。
娘の小学校で配られた冊子の中に、
先生が書かれたエッセイが掲載されていて、
私はその内容に夢中になって目を通しました。
とても面白く、心を奪われて、感動して、笑いこけて、文章の終わりに近づいたら、
最後に「嘘です。」と書かれていました。そこでまた笑いました。
『「嘘をつくべからず。」とは、自分にとって都合の良い嘘をついてはいけないということで、こんなだったら面白いと思って書くことはむしろ良いことでしょう。作文は文を作るもので、軸が嘘でかまわないと思います。』と。
この先生に脱帽です。
娘には、その先生の文章を読んで聞かせ
想像力は自由に働かせることができるし
楽しい世界が無限大に広がることを話しました。
先生のエッセイは、ペットショップに仕入れられたペンギンが
ショップから逃げ出し、捕獲するまでの顛末が
生き生きと書かれていました。
これは本当です。
恐怖心を感じたのも本当です。
でも、猿と一緒にスキーが出来たらどんなに楽しいだろうな、と後で思いました。
それを文章にしてみました。
長く生きていると、
毎年、同じことの繰り返しがつまらなくなることがあります。
イメージを膨らませて、
非現実的な世界に生きてみたくなる時もあります。
猿とのスキーは、本当に楽しいものでした!!