小米朝 現は慶事襲名 前(可朝)は悪事有名 (2008.9.16)

問題の月亭可朝は、桂小米朝でした。小の字をとれば人間国宝です。
今は、その名を実子が継いで、国宝・米朝を創る基となった師匠、
米團治の名を来月、継ぎます。ひ弱な二世政治家と違い
初代・小米朝の悪とは別な、耳かき一杯の毒が魅力。
いい時期の襲名披露です。そんな折のストーカー容疑の逮捕ですが、
めでたさに水を差したとか、師匠が正式に会見して謝罪せよなどとは、
誰も言いません。

相撲の世界とは、師匠と弟子の関係がまるで違います。
師弟間のお金の立場です。米櫃という名の噺家はいませんが、
相撲の世界では、弟子がそうです。
若ノ鵬もそうでしたが、米櫃になればなるほど、
師匠は潤い、弟子は増長するという構図。

落語の世界は逆で、師匠は、無償で芸を教え、小遣いまで与え、
弟子が育ってどんなに売れても、師匠の懐とは関係ありません。
部屋(所属事務所)が違うなんて師弟はざらです。
落語四百年の伝統がそうさせているのか、美しい世界です。
さらに、懐の深い師匠となると、解雇だとか破門だとか四の五の言いません。

可朝は、過去にも賭博で逮捕されてますが、
米朝一門の総領弟子で通っています。
落語協会会長を十年つとめた現・円歌の弟子にも
かつて逮捕者が出ましたが、今も渋い味で高座に上がってます。

「しょうのねぇ野郎だ」「情けないやっちゃ」というのが師匠の本音でしょうが、
何も語らず見守るのが不文律のようです。

「落伍家」などとつまらぬ洒落で報じた記事もありましたが、
今後、可朝はどうなるでしょう?
自己破産、離婚、5万円のアパートに一人暮らしとのことですから、
食うために落語をやるしかありません。やってほしいと私は、願うのです。

「落語家は世情の粗(あら)で飯を食い」、自らの粗忽をネタにまくらをふって、
今度こそ、本格的に古典落語に取り組んでほしいものです。
落語は、元々うまい人です。
えびす顔の割に短気だったという先代・林家染丸を破門となったものの、
上方落語を復興、今日の繁栄を築いた名人が、自らの名前に小をつけ、
弟子にしたことからも判ります。

一昨年の大銀座落語祭で、
得意のギター漫談「ボイン」でなく、念願の古典を聴きました。
トレードマークのカンカン帽のまま、粋な着物で「住吉駕籠」。
しっかりした基礎の上に爆笑を誘いました。
この日、横山ノックも久々に表舞台“犯罪者夢の競演”と話題になったのですが、
ノックさんは体調不良とかで現れず、翌年、75歳で亡くなりました。

可朝はまだ70、女性を追い掛け回す元気があるのですから、
昔とった杵柄、古典をじっくりやれるはず。
逮捕三週間前、今年の大銀座では、「狸の賽」。
博打場の描写は、それはそれは堂に入ったものでした。

フジサンケイビジネスアイ9月6日掲載