アナルーム・ニュース2002年3月25日号


田代尚子
なおこ先生の『夢の課外授業』

編集長代理【編集長代理】
FNN ニュースジャパン』のメインキャスター田代尚子アナから、編集部にエッセイ原稿が新着。 おぉ、久々。しかも、かなり長編。

どれどれ。・・・なに?なおちゃん小学校の先生になった?
政治も経済も世界情勢も混迷で、大忙しのはずなのに、いつの間に?!

では、さっそく本文。じっくりとご賞味あれ。
ニュースじゃ見られない、なおこワールド。

夢の課外授業』とは、“21世紀倶楽部”という民間の団体が行っているもので、21世紀の小学生に夢を与えるために、様々な分野のプロの人たちを招いて小学生に授業を行い、夢の幅をひろげてもらおうというものです。

今回は、その一環として、私がアナウンサーとしての授業を行いました。

3月16日土曜日、7時45分目覚まし時計が鳴る。ああ、眠い。
昨日はゴールデンタイムの特集が長く、ニュースジャパンの放送時間がいつもより30分遅れ、ベッドに入ったのが午前4時過ぎだった。朝はアッという間にやってきた。でも、「いかん!いかん!」今日は特別な日だ。
初めての“先生体験!”しかも憧れの“小学校の先生”。
一度はやってみたかった。

それに、子供たちはもう学校に向かっている時間だ。
しっかり、目を覚まさなきゃ!!

急いでシャワーを浴びて、服選び。
先生っぽい服を選ぼう。放送で着るようなクロっぽい服では子供たちが私に距離を感じてしまう。桜も咲き始めたことだし、明るい服!  いろいろ着てみた結果、ブルーグレーのジャケットに白いパンツの組み合わせにした。

  「ねえ、先生っぽい?
とダンナに聞いてみるが、
  「はい、はい、とっても先生っぽい。
と良く見もせず、ベッドの中からいい加減な答え。
まあ、いいか・・・。もう、時間がない。

何か朝食くらい口にしていかないとお腹から声が出ない。こんな時に限って13年前の研修の際の言葉がよみがえる。『いい発声のためには、空腹はだめ。腹8分!

冷蔵庫を覗いてみても何も入っていない。土曜日の朝なんて、一番食料不足の日だ。仕方ない、トマトジュースでも流し込んでいこう。

かくして、出発。
愛車にエンジンをかけようと思うと、なんと、エンジンがかからない!!大変だ!動かない。車がびくともしない!もう、だから、クラシックカーっていうのは面倒なんだよ〜〜。肝心なときに手がかかるんだから!こないだだって交差点の真ん中で車が止まってしまってコリゴリしたから、車を変えたばかりなのに・・・しょうがない!タクシーだ!大荷物をかかえてタクシーに乗り込み、目的地の千代田区内の小学校に到着したのは予定時刻の1分前。ぎりぎりセーフ。先生が遅刻しては大変だ。

タクシー

10時20分学校着。
先生方と打ち合わせ。

10時45分。みんなの待つ体育館へ。
そこでは、すでにニュース・ジャパンのビデオをみんなで見てくれていた。

そして、田代尚子先生の紹介。拍手で迎えられ、照れるなあ・・・

子供たちは小学3年生から6年生までの112人。
ちっちゃい身体をしゃんと伸ばし、ちいさな椅子にきちんと腰掛けて迎えてくれ、感激

「皆さん、おはようございま〜す。」なんて挨拶すると、元気な声が返ってくる。
いつも、無反応なカメラに向かって話しているので、こんなに素直な反応が返ってくると、それだけでとても嬉しい。

みんなにご挨拶をしたら、さあ、授業の始まり。

  「さあ、まずは発声練習からはじめましょう。」

全員起立。
脚をちょっと開いて、おなかにぐっと力を入れて「あ〜〜」と発声。同時に、のどに手をあてて余計な力をそぎ落とすために手を上下に動かす。次に両肩をおもいっきり吊り上げてドンと落とす。こうすると肩の力が取れて自然に声が出る。

こんなことに小学生は興味を示してくれるだろうかと、実はとても心配だったが みんな楽しそうにやってくれてひと安心。大きな声が元気良く出ている。

次に早口言葉。私だって13年ぶりの早口言葉。大丈夫かなあ〜。
体育館の舞台の上に設置された大きなプロジェクターに、私たちも実際に研修で使用した、「基礎アナウンス読本」の1ページが映し出される。

 蛙ぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、
  六ぴょこ、九ぴょこぴょこ、十ぴょこぴょこ。

 親亀の背中に子亀をのせて、
  子亀の背中に孫亀乗せて、
  孫亀の背中にひ孫亀のせて、
  親亀こけたら、子亀、孫亀、ひ孫亀こけた。

 青巻紙、赤巻紙、黄巻紙で三巻紙、
  赤巻紙、青巻紙、黄巻紙で六巻紙、
  巻き巻きつなげて 長巻紙を作った。

懐かしい〜〜。
映しだされたとたん、子供たちは、我慢できないように口ぐちに練習を始めた。ぴょこぴょこ、ぴょこぴょこ、あちらこちらから聞こえてくる。

  「さあ、みんなの前でやってみたい人!」
  「は〜〜〜〜い!!

と元気にみんな手を上げてくれる。
3年生から6年生まで数人ずつ、実際にやってもらうと、これが、驚くほど上手なのである。みんなの間からも大きな拍手が沸きあがる。

小さい子の吸収能力は、すごいとは良く聞くが、こんなことまでさらっとできるとは本当に驚いた。

蛙・亀・巻物

次にアナウンサー体験。
進行時間も予定通り、よしよし!うまくいってるぞお。

これは、事前に先生方に協力してもらい、休み時間を利用して、10分間外に出て、自分が見たもの、感じたものを文章に書いてもらっておいた。それをみんなの前で、カメラを通して、アナウンサーのように発表してみようという練習だ。その112人分の作文は事前に送ってもらい、目を通しておいた。

3年生から6年生まで同じ条件で書いてもらったが、一番感銘を受けたのは、3年生の「」という作文であった。公園の岩の上に立って ブーンという蚊の音に気づいてから公園を去るまでの、短い時間の描写が実にすばらしいのである。

この子はどんな子なのだろう。

きっと、色白で、背丈はそんなに大きくなく、髪の毛は短かめで、綺麗な目をしているだろう・・・話しかけると、少し下を向いて「はい」と小さな声で答えるだろう。なんて、勝手にいろんな想像をめぐらせてこの時を待った。

  「“蚊”を書いてくれた3年生の隆輝くん!
と呼ぶと、赤いTシャツをきた、ほぼ、イメージどおりのかわいい男の子が、やっぱり、下を向いて「はい」と言って出てきてくれた。

マイクがセットしてあるテーブルにこし掛け、やっと上半身が出るくらいなのに、その上半身より大きな原稿用紙を持ち上げ、しっかりとした口調で読み上げてくれた。
感激である。
担任の先生もわが子を見つめるような瞳で心配そうだったが、終わると、満足げで嬉しそうだった。

隆輝くんが苦労していたのは、カメラのレンズに目をやりながら話すこと。
そういえば、私も新人研修のとき、カメラ目線で話をするのにずいぶん抵抗を感じたのを思い出した。

それにしても、なんとかわいらしい子供たちなのだろう。

何をするにも真剣に聞いてくれ、楽しそうに実践してくれる。

まとめて私の元に送られてきた原稿は、学年ごとに束ねてあった。
それぞれの学年の一番上に置かれてる作品は、どれも、文字が綺麗で、わりと上手に書けているものだった。きっと担任の先生のお勧めの作品だったかも知れない。

しかし、中には、なぐり書きの原稿もあった。
それは、その束の下のほうにあった。

次に朗読してくれたのは、その「下のほう」にあった作品だった。
いかにも“わんぱく坊主”が書きました、と言わんばかりのその原稿からは、休み時間を10分間削られることへの“不満”さえ 感じられた。

内容を要約すると、
  いつのまにか暖かくなってるけど、
  僕なんかいつから春になったのかさっぱりわかんない、
という文章なのである。私は、この正直さに惚れた。

この子を見たい。

  「さあ、次は、“春”を書いてくれた、5年生の遼太郎君!

来た、来た。怖い感じだ。
「なんだよ・・なんで俺なんだよ〜〜。」てな、感じである。

尚子先生の説明は、「この作品は、とても素直な気持ちが率直に書かれています」 というもの。 遼太郎君は、一生懸命カメラに向かって話してくれた。
不満”そうではなかった。

そして、女の子には、フジテレビのお昼のニュースで実際に使ったお天気原稿を読んでもらった。

一番心配したのは、こんなことをさせられてアナウンサーなんて絶対いや、と思われては大変だ。この子達のすばらしい点を思いっきりほめてあげた。だって本当にみんな良くできたから。

カメラ

私は小学校時代の思い出がほとんどない。
きっと先生方は、この子の才能を伸ばしてあげようと、あの手この手で努力をしてくださったに違いない。けれども私自身はあまり記憶がない。

唯一覚えているのは、図画の時間に絵を描いていたら、
  「どうしてあなたはこんな絵しか描けないの?」
と先生に怒られて、パレットの中の絵の具をぐちゃぐちゃにされたことと、本を最後まで読まずに読書感想文を書いて怒られたことくらいだ。

あとは、給食のパンをこっそり持ち帰り、家のわんちゃんにあげていたことを友人に告発され、先生に注意されたこと。あまりいい子ではなかったようだ。

この、目の前の輝かしい子供たちに接して、夢の課外授業の一日が少しでもみんなのためになってくれればという想いがいっぱいだったが、果たして、どれくらい子供たちの記憶に残ってくれるものなのだろう、という思いがふとよぎった。

読書

今、学生時代を振り返って、反省することがひとつだけある。
それは、読書が足りなかったこと
小さな頃は
  「そんな時間があるなら、家の仕事を手伝いなさい。」
といわれて良く働いた。

だからひとつだけ、みんなに伝えたかったことは、
  「本を好きになりましょう。たくさん本を読みましょう。
ということ。

厳選の末、『我輩は猫である』を選び、みんなに聞いてもらった。これなら猫の気もちになって、作品にはいりやすいかな、と考えたからである。

どこの部分を読むか迷った。猫がご主人に出会う部分までは決まり。迷ったのは、その後の半ページだ。だって、その猫は、ご主人の職業「教師」を「これほど楽な職業はない。」と描写しているのである。

夢の課外授業には、教師がいっぱいだ。
  「エイっ!、読んじゃえ!
読んだ。シ〜〜ンとした。でも、生徒達は、拍手してくれた。
私は、読み終わって、即言った。
  「教師は大変な職業ですよ。本当は。」

まあ、いいや。生徒達は冒頭部分の10分間、静かに耳を傾けてくれた。猫の気持ちになってくれただろうか。

こうして、課外授業はアッという間に終わった。

授業の冒頭、
  「みんなの中で、アナウンサーになりたい人いますか?」
と聞いたら、たった一人の女の子の手が上がった。
もし、授業の終わりにもう一度聞いていたら、少しは増えていただろうか。 手を上げたあの女の子は、授業の最後の挨拶で
  「アナウンサーになりたいという気もちがますます強くなりました。
といってくれた。
ほっ!!

校門・桜

みんなで写真撮影を終えて学校を出た。みんなのアーチに送られて。

来年度の4月からは公立学校の土曜日の授業はなくなる。思えば、記念すべき、土曜日“最後の授業”だった。

6年生のみんなは、まもなく中学生だ。そしてほかのみんなもひとつ上の学年に進学する。みんなの夢がこれから大きく大きく広がっていくことを心から願っている。

が、本当は、夢を与えるどころか、私のほうがたくさんの夢をいただいた一日だった。



編集長代理【編集長代理】
教えることで教わる。教えることでより理解が深まる、ってよく言う。教えることで、ハッと気づかされることって、うん、やっぱりある。それは教わっているだけの時代には、気づけなかったことだったりする。なおこ先生にとっても、ドキドキと発見、”気づき”の連続だったようで、思わず、この体験を書かずにはいられなかったのだろうな。
(それにしても、こどもたちがウラヤマシイ(^^))

かくいう編集長代理も、後輩アナにアドバイスするときなどは発見と気づきと、自分の至らなさに冷や汗、の連続だったりする。おぉ、そういえば、もうすぐまたフレッシュマンが仲間入りする。今年もアナルーム新戦力へのスペシャルインタビュー、近日公開予定。



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