第16回 有名シェフの味覚教育
キャビア、フォアグラ、トリュフの乗ったお皿が子供たちの間に回るたびに歓声が湧き起こる。
「わー、これが肝臓!」
「トリュフって臭〜い」
「キャビアはいくらの味がする!」
子供たちは、初めて目にする世界3大珍味を鼻に近づけ、匂いをかいだり、手で触ったり、五感をフルに働かせて目をキラキラ輝かせている。
これはあの有名なフレンチシェフ三國清美さんが、小学生のために行っている味覚の教育「キッズ・シェフ」の冒頭の風景です。「小学校6年生までに味覚を刺激することが大切」と考える三國さんらしい授業の始まりです。
三國さんが小学生に味覚の教育を始めたのは、2000年秋。「今のような食生活では、子供たちの舌は、単純で濃い味のファストフードに順応してしまう」と危機感を抱いたことがきっかけです。三國さんは、「本物の味覚」を子どもたちに体験してもらおうと、味を感じる細胞「味蕾(みらい)」の数が増え、舌が敏感になる小学校4年生から6年生に対して、ボランティアで味覚の教育「キッズ・シェフ」の活動を始めたのです。
私たちが取材したのは、栃木県の私立小学校、「作新学院」の6年生。授業のはじめに世界3大珍味の試食で、味覚が呼び覚まされた子供たちは、次に三國シェフから「味の基本について」教わります。
味には、「甘い」「塩辛い」「酸っぱい」「苦い」という4つの基本の味がある。
ボクが小さいころは、おじいちゃん、おばあちゃんが食べるものを一緒に食べていたから、サンマの内臓も食べた。だから、「苦い」「塩辛い」などの味を毎日の食事の中で、自然に覚えることができた。でも、君たちは、ファストフードやレトルト食品をたくさん食べている。そうすると、「ホンモノの味」を知らないまま大人になって、美味しいものどころか、基本的な味も分からない人になってしまう。だから舌がとっても敏感な今、何でも食べていろんな味を味わう必要があるんだよ。
その後、子供たちは、オードブル担当からデザート担当までの6班に分かれ、これまで数ヶ月に渡って自分たちで考えたメニューを三國さんの前で発表します。ポイントは、地元の食材を使うこと。
子供たちの発表が終るたびに三國さんは、そのメニューを調理するときのコツを伝えます。例えば、「魚のフリール」という魚をパン粉であげるフランス料理を作るグループは、ソースを栃木の特産品、巨峰で「紫色」にすることにこだわっていました。そこで早速三國さんの的確なワンポイント・レッスン。 調理時間は1時間しかない、今回はぶどうジュースを鍋で煮詰めてごらん。君のイメージしたブドウ色になるよ。マヨネーズは分離しないように。サラダオイルを糸のように垂らしながら、混ぜていくんだよ。
発表しながら、調理手順を確認しあった後、いよいよ調理実習です。制限時間は「料理の鉄人」さながらピッタリ1時間。三國さんの「ヨーイ、ドン」の掛け声と共にスタートです。
子供たちは、お互いにきっちりと決めた役割を全力で果たしながら、調理します。三國さんの表情も、真剣そのもの。三國さんが実際にレストランの厨房にいるときも、きっとこのような厳しい表情をしているのだと想像できるプロの顔です。三國さんは、子供たちの間を早足に回りながら、おぼつかない手つき、混ぜ方などには、黙って手本を見せます。まるで「プロの技術を目で盗め!」とでも言っているかのようです。三國さんの真剣な雰囲気に子供たちも更に懸命になっていきます。
「キッズ・シェフ」の授業では、片付けも含めて1時間、という制限時間を越えると失格になってしまいます。子供たちは、集中力を高めること、チーム全員が協力することなどを体験的に学んでいきます。
最後の15分は、焦りの渦の中での作業となりましたが、6班すべてが見事1時間以内に完成させることができました。 その後は、みんなで完成させたフルコースのフランス料理を、校長先生や三國さん、子供たち全員で試食します。子供たちは、「美味しい」「ソースがうまくできたね」などといいながら、お皿がピカピカになるまで、すっかり食べてしまいました。
そして、いよいよ三國シェフによる採点です。さて、「紫色のソース」にこだわった、魚のフリールの採点は・・・・。
魚のフリールですけど、我々プロもびっくり。マヨネーズも初めて作ったんだよね。
ブドウの酸味と甘みがきいていて、100点満点です!!(拍手)
そのほかのメニューも三國シェフから「100点満点」をもらい、その日の「キッズシェフ」の授業を終えました。
三國さんの「味覚の授業」は、単に舌を鍛えるだけでなく、更に深い意味もふくまれているようです。
正しく食べることは、栄養面で「キレル」性格の子供をつくらないし、「味覚」を刺激することは、五感という感覚を鍛えます。感覚が磨かれて鋭くなると、他人を理解するという「心を創る」ことにもつながるのです。
私にとって「食」は、プレジュール=喜びです。喜びを作る、それが食なんです。
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三國さんの「食は喜び」が子供たちにも伝わったのでしょう、「今日の授業は大人になってもずっと覚えています」と満面の笑顔で答えてくれた子供の一言が印象的でした。
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