アナマガ

どちらかというと シッカリ書きたい人のためのコーナー 10年以上の渡り、続いてきたアナルームニュースの中で 好例の連載企画を「コラム」という形で集めました。 個性あふれるラインアップ!ブログとはひと味違う魅力をお楽しみください!
アナルームニュース 2008年06月17日号


うれしい再会がありました。
相手はアナウンサーの大先輩。去年、38年間勤め上げた北海道放送を定年退職され、その後会社を設立、多方面に活躍されている松永俊之さんです。
松永さんは、退職後も北海道・札幌に住んでいて、普段はなかなか会うことができません。
でも先日、現役局アナ時代から続けていらっしゃる団体旅行の仕事でフジテレビを訪れ、その際に幸運にもお目にかかることができたのです。

松永さんと知り合ったのは、私が北海道大学の学生だった時代。
工学部電気工学科に所属し、アナウンサーになることなど全く考えていないころでした。
当時私は、札幌で自転車通学をしていました。
ある日、家に帰ろうと、学内で自分の自転車にまたがろうとしたとき、一人の男性がこちらへ近づいてくるのがわかりました。両手に杖を持ち、年齢は40歳くらい・・・。どこか見覚えのある彼は普段テレビで見ているアナウンサーであることに、私は程なく気づきました。そして彼は、思いもよらない言葉を私にかけてきたのです。
「その自転車、僕のなんだけど・・・。」
いつも通学に使っている自転車が、松永さんのもの・・・?あまりの唐突さに、私は思考が一瞬ストップしました。一方の松永さんは、朗らかに、”いつもの”やさしい口調で続けます。
「ここの荷台のところに妙な傷がついているでしょ。これ、僕の杖を乗せていてついた傷なんです。僕は歩くのに杖が必要で、それを乗せやすい荷台のついているこの自転車を妻が選んでくれたんだけど、半年前に盗まれてしまってね。ずっと二人で探してたんですよ。」
松永さんの少し後ろに佇む奥様を、そっと見ました。こちらを疑う風でもなく、ほっとした様子でやりとりを聞いています。
約半年前、街の中古用品店で、私はこの自転車を買いました。値段は7000円。とても乗りやすく、気に入って使っていたこの中古自転車は、実は盗難車・・・。
「盗難に遭った持ち主が現れたということは、この自転車は、そしてこれを買った僕はどうなるのだろう・・・」と思い始めていると、松永さんは
「僕はこの自転車にとても愛着があるのでね、悪いんだけど、この自転車を買ったときの値段で譲ってくれないかなあ。」
と言うのです。”いつも以上に”気持ちのこもった口調でした。なんとも心温まる空気が流れました。 正直なところ、私はホッとしました。7000円が戻ってくるのなら、また新しい自転車を探せばよいのですから。そう思うと、今度は自転車の窃盗犯への怒りが湧いてきました。
すると
「一緒に、その自転車を買った店に行き、犯人を懲らしめてやりましょう。」
と松永さん。同感でした。
二人は即、中古用品店に押しかけました。いつも朗らかな松永さんが珍しく表情を硬くして店主に噛み付きました。・・・しかし店は口を閉ざすばかり。警察にも届けました。
どうにも気持ちは治まりませんでしたが、それ以上自分たちで行動できることは思いつきませんでした。

そんな稀有なきっかけで知り合っただけになお、松永さんとの関係は、他の人にはない特別なものです。
その後私は北大を卒業して札幌を離れ、出身地東京に戻り、別の大学院に進学して学生としての研究活動を継続します。
やがて理科系の大学院生は、人生をやや方向転換してアナウンサーを明確に目指すようになるのですが、その動機に、アナウンサー松永さんに出会ったことがなんらかの形で影響したのは間違いありません。
地域も違う。放送局の系列も違う。年代も違う。
でも同じアナウンサーとして敬愛する松永さんに、先日再会しました。