From TOM Vol.27 (5/8)


ハワイにはスラック・キーと呼ばれる独特のギター奏法がある.「スラック」つまり,ギ ターの弦を「緩め」てキーをチューニングしてプレイするのだ.
使うギターはフォーク・ギターだろうが,クラシック・ギターだろうが何でもい い.スラック・ギターでプレイされる音は言葉で言い表せないくらい素晴らし い.
あえて,どんな音かと言ってみれば,とてもメロウで,平和で,自然で,やさし くて,暖かくて...天国で天使がハープを弾いていたらきっとこんな音だろう な,と思うような音.僕は毎日聴いている.

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キャプテン・クックによって「発見」されたハワイは歴史のなかでどんどん西欧化されていった.文字も持たず,肌の色の黒いハワイアンたちは海の向こうから乗り込んできた白人たちにさげすまれた.
始めはキャプテン・クックのことを神様だと思いこんだハワイアンたちだったが,彼が自分たちの土地を奪おうとしていることが分かると,浜辺まで追いつめ,殺した.七つの海を航海したキャプテン・クックは泳げなかったのだ.さらにハワイアンたちは古くからの慣習にのっとり,彼を食べてしまったという.
長い歴史の流れのなかで,結局,ハワイはアメリカのものとなり,現在もアメリカの州のひとつだ.

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ハワイにギターが渡ったのは19世紀始めのころ,一説にはめきしこのカウボーイが伝えたと言われる.
あえて言うが,ワイキキのホテルなどで演奏されるような,甘ったるいハワイアンではない.女性によるフラダンスに代表されるようなハワイのイメージは作られたものだ.第一,「フラ」はもともと祝詞(のりと)で,しかも,主に男だけが踊った.あんな裸同然の姿で踊ったりはしない.僕はワイキキのホテルなどで,たとえばビートルズの曲を甘ったるいハワイアンアレンジで演奏するバンドを見るとき,悲しい気持ちになる.決してハワイの文化ではない.誰かが作り上げたイメージにすぎない.

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本物のハワイアン,スラック・ギターを聴きたければギャビー・パヒヌイやレイ・カネのCDを聴いてみるといい.素晴らしい音だ.
スラック・キーのチューニングは100種類以上あるらしい.各家庭や師弟間で伝えられてきた様式.
西欧化されていく歴史のなかで,ハワイ人は土地や文化や言葉をうばわれた.ただひとつ,西欧人がハワイ人に与えたものはギターだったのかもしれない.

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僕は波乗りをするので特に感じるのかもしれないが,スラック・ギターの調べは波の音だと思う.波のあの動き,うねり,波を形成するひとつひとつの水滴を見るとき,スラック・キーの音が聞こえてくる.

TOM


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