宮崎智尋の今週の病理診断 (医療監修:東京逓信病院 病理診断科 田村浩一)

みなさん、こんにちは。
壮望会第一総合病院 病理診断科 の宮崎智尋です。
ドラマ「フラジャイル」 楽しんでいただけたでしょうか?

このドラマでは毎回、病理診断の組織画像が登場します。みなさんご覧になったことがないと思うので、岸先生に解説をお願いしたのですが、「やだよ、面倒くさい」と、あっさり断られてしまいました。そこで新米病理医の私が勉強したことを、みなさんにお伝えしたいと思います。

顕微鏡なんて、医学部の実習の時に見ただけなので、私もわからないことだらけなのですが、早く一人前の病理医になれるように、一生懸命勉強して頑張ります。どうか応援してください。

ドラマの初めの部分に出てきたのは、胃カメラでのぞいてつまみ採ってきた胃の粘膜で、「胃の生検組織」と言います。私には ちょっと炎症のある胃粘膜にしか見えませんでした。

ところが、岸先生の診断は「胃がん」!
どこががんなの??と思って調べてみました。

おどろいたことに、岸先生が拡大を上げて観察していたのが、がん細胞だったのです。

胃カメラでも異常をみつけるのが難しかったようで、慢性胃炎という臨床診断で提出された、若い女性の胃粘膜だったのでとてもショックでした。これは20代の人にもみられるスキルス癌というタチの悪いがんだったのです。

がん細胞がばらばらに組織の中に入り込んでいくので、ちょうど間違いさがしの間違いがみつからないように、見逃されてしまうこともあるそうです。

標本をさーっと見ただけで、素早くがん細胞をパッとみつけてしまった岸先生、さすがです!

ちなみに私が医学部の病理実習で見たのは、下の写真のように「ここが“がん”」って、はっきりわかる標本でした。

岸先生、病理医って刑事みたいですね!

第一話の中で岸先生は、佐藤さんという患者さんの肺のがんが、転移(肺癌ではなく他の臓器で発生したがんが飛び火したもの)ではないかと言われました。ふつう転移の可能性があればCTなどで他の臓器を調べるのですが、藤原先生は必要ないと撮影されませんでした。それでは病理は打つ手がないと思ったのですが、なんと岸先生と森井さんは、標本の染色によって転移を証明してしまったのです。私は、染色といえば細胞の核を紫色に、細胞質をピンクに染めるものと思っていました。ところが、細胞のもっているタンパク質を染める、という方法があったのです。確かに医学生の時に、免疫組織化学とか免疫染色という方法があることを習った気がしますが、実際はこんなふうに使うんだ!とびっくりしました。

ちょっと難しい話になりますが、がんの中には特別なタンパク質をもっていて、それが何であるか特定されればどこから発生したがんかがわかるものがあります。有名なのは前立腺癌のPSAで、人間ドックなどの血液検査でも調べられるのをご存じの方もおられるでしょう。しかし、第1話で問題になったがんは1つのタンパク質が特定されれば決まり、というものではありませんでした。そこで、「Aというタンパク質が染まったから、候補となっているがんの中で、これとこれの可能性がある」「しかしBというタンパク質は染まらなかったから、これとこれは否定される」、さらに「Cというタンパク質が染まったから・・・」と、結果を組み合わせながら、何のがんかを絞り込んでいったのです。

この写真は1話の患者の佐藤さんの肺の生検(肺の組織をつまみ取ったもの)で得られた腫瘍で、肺の小細胞癌というがんに似ています。しかし岸先生は転移の可能性を考えて、検索を進めたわけです。
森井さんが、いろいろなタンパク質について免疫染色をし、岸先生がその結果によって始めに考えられたがんの候補を消していきました。最後の決め手になったのは下の2枚、デスミンとCD99というタンパク質でした。それまでの結果で他の多くのがんが否定されていて、その上でこの2つのタンパク質が茶色く染まったことで、線維形成性小円形細胞腫瘍という診断にたどりついたわけです。これじゃあ藤原先生も、ぐうの音も出ないですよね。

たくさんの容疑者の中から真犯人を絞り込んでいくみたいで、私は病理医ってまるで刑事のようだと思ってしまいました。

※症例は架空の患者さんですが、組織写真はすべて本物です。ただし1人の患者さんの組織写真とは限らず、複数の症例を組み合わせて構成しているものもあります。(医療監修:田村浩一)

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